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著者の主張が"現実"に食い込んでこないのが残念。
高橋 伸夫 氏(略歴下記)
『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』 〔'04年〕
'04年1月の刊行で、同年の(「週刊ダイヤモンド」の)「ベスト経済書」第1位に選ばれた本。
「週刊ダイヤモンド」にしても「週刊東洋経済」にしても、「ベスト経済書」は学者やエコノミストに対するアンケート調査によって選出しているのですが(だから往々にして現場の感覚とズレたものが選ばれることがある?)、本書の場合、一般書店での売り上げもビジネス書としてはトップにきていた時期があり、「賃金による動機づけ」を"科学的根拠のない迷信"とスッパリ言い切ってしまうようなところが受けたのかもしれません。
しかしながら、「そっかあ〜、なるほど」と思った"一般の社員"だって、「もっとお給料をあげてくれなきゃやる気湧かないヨ」とも思っているのが現実ではないでしょうか。
ハーズバーグの「動機づけ衛生理論」において「賃金」が〈動機づけ要因〉ではなく〈衛生要因〉とされていることを、本書を読まずとも既に知っている人事パーソンにしても、「だから賃金は満足の対象ではなく、不満の対象にしかならないわけだ」と思うだけであって、火急の課題である賃金の問題を放置して、高橋教授が強調する「内発的動機づけ理論」や「未来傾斜原理」にそれこそ一方的に"傾斜"するなんてことは無く、仮にそうしたところで、今、社員の前に現実に何を提示できるのだろうかという問題が残ります(わが社は年功序列で行きます!って宣言するのだろうか?)。
「望ましい動機づけの話と望ましい賃金制度の話は、本来は別次元の話」というのは正論だと思うし、「次の仕事の内容」で報いるというのもわかります。
しかし、論旨が「金銭的報酬で逆にやる気を失う」という負の相関の方へいってしまい(あの有名なエドワード・L・デシ教授の実験から得られたこの理論を個人的には否定しないが、本書ではもともと別次元の話じゃなかったのか?)、その査証に何ページもさいています。
それはそれでたいへん解りやすく書かれていて、その後に続く「反復囚人のジレンマ・ゲーム」や「お返しプログラム」などといった話もたいへん面白いのですが、それらが、「読み物としては面白かったけどね」というある経営者の感想に表されるように、"現実"に食い込んでこないのが残念です。
【2010年文庫化[ちくま文庫]】
《読書MEMO》
●望ましい動機づけの話と望ましい賃金制度の話は、本来は別次元の話(17p)
●年俸制導入企業の2つのタイプ...誕生まもなく、中途採用主体の会社と経営状態が危ない会社(給料が下がったのはお前の働きが悪いから、という論理)(19p)
●金銭的報酬で逆にやる気を失う...金銭で報いる仕組みよりも「次の仕事の内容」で報いるシステムの方が、人件費は安くすむ上に、動機づけの面でも優れている(30p)
●米国企業の創業者は強い文化が成功をもたらすと信じている(41p)
●達成感は仕事自体が与えてくれるものであり、金銭的報酬によるものではない
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高橋 伸夫
1957年生まれ。小樽商科大学卒業。筑波大学大学院社会工学研究科単位取得。学術博士(筑波大学)。東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授、東京大学大学院経済学研究科助教授などを経て、現在は同大学大学院経済学研究科教授。専門は経営学・経営組織論。研究課題は日本企業の意思決定原理、組織活性化。特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター理事長も務める。主な著書に『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ』(日経BP社)『できる社員は「やり過ごす」』(日本経済新聞社)など。近著に『〈育てる経営〉の戦略――ポスト成果主義への道』(講談社選書メチエ)。