【2683】 ○ 出井 智将 『派遣新時代―派遣が変わる、派遣が変える』 (2015/06 幻冬舎ルネッサンス新書) ★★★☆

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法改正によって派遣法が「常用代替防止」という概念から解き放たれたという考えは賛同できる。

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派遣新時代 ~派遣が変わる、派遣が変える~ (幻冬舎ルネッサンス新書)』['15年]

 2014年に2度国会で廃案となり、2015年の国会でも議論が紛糾した労働者派遣法の改正案は、衆議院で可決(強行採決)されたものの、その約2ヵ月を経た現在も参議院厚生労働委員会での審議は終わらず、当初9月1日としていた施行日を9月30日に修正したいと与党側が提案するに至っています。こうした背景には、野党側の反対だけでなく、改正案では、専門26業務の区分が廃止され、すべての派遣労働者の受け入れ期間が個人単位で最長3年までになることから、雇用を不安定にするという不安が世論的にも根強くあることが窺えます。

 一方、派遣会社の経営者による本書は、今回の改正を歓迎する立場で書かれています。第1章「ようやくわかりやすくなる派遣の働き方」では、派遣で働くときは1か所で原則3年までになるといった改正案のポイントを解説するとともに、はじめて派遣社員の継続雇用に目配りがいった改正案であり、派遣先への直接雇用を後押しするものであるとしています。

 第2章「なぜ派遣労働は誤解されてきたのか」では、派遣という言葉にはネガティブなイメージが色濃く刻まれているが、「派遣社員=カワイソウ」という方向でばかり物事を見ていると現実を見誤ることになり、積極的に派遣という働き方を望む労働者の声も無視してはならないとしています。但し、「消極型派遣労働者」が置かれている厳しい状況は楽観できるものではなく、彼らを漂流させたままにしてきた派遣業界にも責任はあるだろうが、ディーセント・ワークの提供など、日本の派遣も変化しなければならない段階にきているとしています。

 第3章「派遣社員と正社員ではここが違う」では、派遣の仕組みを説明するとともに、派遣会社は何のためにあるのかを改めて考察し、派遣労働者が「非正規」というカゴから飛び出したくても飛び出せないのは、その問題を放置したまま"増改築"を繰り返して複雑化した法律にも問題があったとしています。

 第4章「派遣と偽装請負の危ない関係」では、派遣が問題となる背景には、違法派遣や偽装請負が横行してきた実態があるとして、派遣と請負の違いを解説しています。

 第5章「派遣のルーツを探る」では、「派遣」というものが英文タイピストの不足から生まれ、政令26業務のネガティブリスト化によって複雑化し、一方、業務請負は、製造派遣禁止の代替として成長したとしています。

 第6章「長妻プランと民主党政権下での混乱」では、2009年に誕生した民主党政権化で、それまでの労働者供給事業の規制緩和路線が一転して規制強化に向かい、その象徴が「専門26業務」のうちの「事務用機器操作の業務」と「ファイリングの業務」を実態を顧みずに狙い撃ちした"長妻プラン"であり、これにより多くの派遣社員が職を失ったとしています。本章では、「離職後1年以内の派遣受け入れ禁止」なども、実態にそぐわないものとして見直すべきだとしています。

 第7章「『正社員のため』から『派遣労働者のため』へ」では、2015年改正の派遣法は、はじめてできた派遣労働者を守るための法律であり、「業務内容」によって決められていた派遣期間が「人」を基準とするようになるというのが大きな変更点であるとともに、従来の特定労働者派遣・一般労働者派遣の区別が撤廃され、すべてが許可制になることがポイントであるとしています。更に、「常用代替防止」というあたかも派遣法のコンセプトのように用いられてきたる考え方は、もはやその意義を喪失しているとしています。

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