【1762】 ○ 岩波書店(ホセ・ロヘリオ・ブエンディーア) 『プラド美術館 (1997/02 岩波書店) ★★★★ (○ Alfonso E.Perez Sanchez(アルフォンソ・E・ペレス=サンチェス) 『The Prado―Spanish Paintings』 (2001/04 Scala Books) ★★★☆)

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スペイン絵画三大巨匠を強引にランク付けするとベララスケス、ゴヤ、エル・グレコの順になる?

プラド美術館.jpg(31.4 x 27 x 6.8 cm)『プラド美術館』['97年] The Prado Alfonso E.Perez Sanchez.jpg Alfonso E.Perez Sanchez(アルフォンソ・E・ペレス=サンチェス)『The Prado』['01年/ペーパーバック版]

 プラド美術館は、スペイン・マドリードにある世界でも有数規模の内容をもつ美術館で(建物自体は、最初は自然科学博物館にするつもりで建てられた)、15世紀以来の歴代のスペイン王家のコレクションを展示するために使われてきゴヤ4.JPGました。そのため、ベラスケス、ゴヤなどのスペイン絵画が質量ともに充実しているほか、フランドル、イタリアなどの外国絵画も数多く観ることができます(フランドルはスペイン領だったこともあり、スペイン王室のコレクションにフランドル絵画が多数加えられたという経緯がある)。

 大判約650ページの本書は、プラド美術館の所蔵作品集としては最高クラスの豪華本的内容であるばかりでなく、スペイン絵画、イタリア絵画、フランドル絵画、ドイツ絵画、イギリス絵画、フランス絵画、19世紀スペイン絵画、といったように系統立てて整理されています。その点では、一般にも馴染みすいものとなっていますが、価格的には,19、750円と高く(しかも絶版中)、スペイン王家のコレクションに的を絞っているのか、ピカソなど近代絵画は除かれています。

ベラスケス5.JPG 但し、個々の作品の解説はたいへん丁寧で、特に有名絵画に関しては詳細且つ専門的で、更に細密画などについては必要に応じて絵画の一部の拡大写真も掲載されています(画集と解説集を兼ねていると言ってよく、解説は研究者向けの水準か)。

 表紙にはゴヤの「着衣のマハ」がきていますが(裏表紙はエル・グレコ)、「裸のマハ」とどちらが優れているか、評価はわかれるようです。人妻がモデルだったということを前提に、「裸のマハ」はじっくり描かれ、「着衣のマハ」は大急ぎで描かれたという俗説がありましたが、実は「裸のマハ」はモデルを見ないで描かれたとも推察されており、本書での評価は「着衣のマハ」の方が高いようです。

プラド美術館中央ホール.jpg スペインに関する本をいろいろ見てみると、スペイン人自身の一般評価(人気)では、エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤの三大巨匠が一番「格上」(人気が高い)とされているようで、それに20世紀の三大巨匠であるピカソ、ダリ、ミロが続くようです。

 実際のプラド美術館の展示仕様については、ベラスケスとゴヤは「別格」扱いという感じで、ゴヤは「黒い絵」展示室など作品群ごとに単独で展示室があり、これに匹敵するかこれを上回るのがベラスケスの扱いで、「ラス・メニーナス(宮廷の官女たち)」は中央ホール奥にでんと構え、他の数枚の作品とともにホールを独占しています(作品配置は細かいところで毎年変わっているようだが)。

 現地に行った際にも何冊かガイドブックを買いましたが、Alfonso E.Perez Sanchez 編 "The Prado-Spanish Paintings"は、ソフトカバーで入手し易い価格の割には内容的には充実していました。代表編者アルフォンソ・E・ペレス=サンチェスはプラド美術館の元館長であり、この人の"ゴヤ"は日本語版が出ていますが、本書は日本語版は出ていないみたい。但し、スペイン語版ではなく英語版なので、解説部分も何とか読めます('01年に改版(第2版)、日本の洋書店にも置いてあった)。

1 The Prado.jpg "The Prado"の表紙はベラスケスの「マルガリータ王女」、裏表紙はゴヤの「1808年5月3日の銃殺」ですが、何れも表紙にくるに相応しい作品でありながら、「マルガリータ王女」は同王女をモデルとした連作も含め、『プラド美術館』の方には掲載されていないなあ。何故だろうか。

 プラド美術館は油彩画だけで8千点近くを所蔵しており、抽出の仕方は様々かと思いますが、「マルガリータ王女」も、当美術館ではかなり目立つ展示になっていたように思います(この作品の王女のスカートの生地、間近で見ると単なる殴り描きにしか見えないものが、距離を置いてみると艶やかな光沢を放っているように見えるのが不思議)。

 専門的見地からみれば、掲載点数も多く、解説も詳細な岩波書店版『プラド美術館』は類書の追随を許さない高グレード感がありますが、一般的な感覚から言うと"The Prado"の方が作品の抽出基準はしっくりくるかもしれず、入門書としてはお薦めです。

 こちらは、点数はそう多くないですがピカソなどの近代絵画もカバーする一方、Spanish Paintngs とサブタイトルにあるように、プラド美術館に数多くあるイタリア系やフランドル系の作品などはカバーされていないようです。

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