【1315】 ○ 瀬川 松子 『中学受験の失敗学―志望校全滅には理由(わけ)がある』 (2008/11 光文社新書) ★★★☆ (△ 瀬川 松子 『亡国の中学受験―公立不信ビジネスの実態』 (2009/11 光文社新書) ★★★/× 高木幹夫+日能研 『予習という病』 (2009/11 講談社現代新書) ★☆)

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"内部告発"っぽいが、『予習という病』のようなアザトイ本の多い中では、まともなスタンス。

中学受験の失敗学 2.jpg瀬川 松子 『中学受験の失敗学』.JPG 瀬川 松子 『亡国の中学受験』.jpg 予習という病.gif
中学受験の失敗学 (光文社新書)』['08年]/『亡国の中学受験 (光文社新書)』['09年]/高木幹夫+日能研『予習という病 (講談社現代新書)』['09年]

 本書『中学受験の失敗学-志望校全敗には理由(わけ)がある』('08年/光文社新書)では、中学受験に取りつかれ、暴走の末に疲れ果ててしまう親たちを「ツカレ親」と名づけ、親たちをそうした方向へ駆り立てている、中学受験の単行本や受験雑誌、更に、受験塾の指導のあり方を批判しています。

 大手塾で受験指導し、その後、家庭教師派遣会社に転職して受験生を抱える家庭に派遣され、多くの「ツカレ親」を見てきた著者の経験に基づく話はリアリティがあり、モンスターペアレントみたなのが、学校に対してだけでなく、塾や家庭教師派遣会社に対してもいるのだなあと。

 塾や家庭教師の志望校設定には営利的判断が含まれていることがあり、くれぐれも、そうした受験産業の"カモ"にされて、無謀な学習計画や無理な目標設定で我が子をダメにしないようにという著者のスタンスは、至極まっとうに思えました。(評価★★★☆)

 この本が最後に「ダメな勉強法」を示していて、著者がまだ受験指導の現場にいた余韻を残しているのに比べると、続編の『亡国の中学受験-公立不信ビジネスの実態』('09年/光文社新書)は、やや評論家的なスタンスになっているものの、基本的には同じ路線という感じで、タイトルの大仰さが洒落だったというのは洒落にならない?(タイトル通り、きちんと「亡国論」を書いて欲しかった)。

 前著では、受験塾と私立中学の裏の関係なども暴いていましたが(既に組織に属していないから"内部告発"とも言い切れないのだが)、本書では、公立中学への不信感を煽り、私立中高一貫校への幻想を抱かせる、私立中学と受験塾の"戦略"に更にフォーカスしていて、中学受験のシーズンになるとNHKのニュースなどで、報道と併せてトレンド分析のコメントをしている森上研究所とかいうのも、日能研の応援団だったのかと(知らなかった)。(評価★★★)

 その点、高木幹夫+日能研『予習という病』('09年/講談社現代新書)は、日能研の社長が書いているわけだから、分かり易いと言えば分かり易い(皮肉を込めて)。予習をさせないというのは、日能研もSAPIXも同じですが、それが本当にいいかどうかは、授業の程度と生徒の学力の相関で決まるのではないでしょうか、普通に考えて。それを、「福沢諭吉は予習したか?」みたいな話にかこつけているのがアザトイ(「ツカレ親」である妻を持つ夫向け?)。

 実際、塾にお任せしている分、教材の量やテストの数、、夏期講習や冬期講習などの補講は多くなり、それだけの費用がかかるわけで、週末ごとのテストに追われ、ついていけなくなると、結局はどうしても予習(親のアシスト)が必要になり、さもなくば、わからないままに授業を聞いて試験を受けるだけの繰り返しになってしまう...。

 日本社会の中で、未来学力でものを考えられる環境は「私学の中高一貫校」しかないと言い切っていて、そりゃあ、自社の売上げ獲得のためにはそう言うでしょう。大手進学塾の多くは似たようなことをやっているわけだけど、こんな露骨な宣伝本を新書で出してしまっていいのかなあ。(評価★☆)

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