【794】 △ 山折 哲雄 『神秘体験 (1989/04 講談社現代新書) ★★☆

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1つ1つの話は面白いが、全体の纏まりを欠く。かつてのビートニク世代の指向に近い?

山折 哲雄 『神秘体験』1.jpg神秘体験.jpg          山折哲雄.jpg 山折 哲雄 氏 (宗教学者)
神秘体験 (講談社現代新書)』〔'89年〕

 宗教学者で、『神と仏-日本人の宗教観』('83年/講談社現代新書)から『親鸞をよむ』('07年/岩波新書)まで一般向けの著書も山折 哲雄 『神秘体験』2.jpg多い山折哲雄氏が、神秘体験について考察したもので、刊行は'89年。

 なぜ人は幻覚や幻聴に天国や地獄を見るのかということを、自らが高地ラサで体験した神秘体験から語り起こしていて、宗教に付き物の神秘体験が、地理的・気候的環境による心身の変調により起きやすくなるケースがあることを、著者自身が自覚したうえで、古今東西に見られた神秘体験を紹介し、そうした神秘体験が生まれる共通条件を探ろうしているように思えました。

 話は、キューブラー=ロスやシャーリー・マクレーンらの神秘体験に続いて、神秘主義思想、エスクタシーとカタルシス、"聖なるキノコ"などへと広がり、グノーシス思想からウパニシャッド哲学、カルガンチュア物語からハタ・ヨーガ、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」からグレゴリオ聖歌まで、とりあげる話題は豊富です。

 1つ1つの話は面白く、著者が博学であるのはわかりますが、宗教人類学的な視点で論じているにしても、それらの事例の結び付け方がやや強引な気もします。
 エッセイとしてみれば、そのあたりの恣意性も許されるのかも知れませんが、個人的には、そうした神秘話への感応力が自分には不足しているためか今一つで、加えて、論旨をどこへ持っていきたいのかがわからず、読みながら少しイライラしました。

 そうしたら最後に、死と輪廻転生の思想について、三島由紀夫の行為と作品などを引きながら語られていて、これはこれで章としては面白いのですが、結局全体として何が言いたいのかよくわからなかったです。

 こういう本は感覚的に読むべきものだろうなあ。神秘体験を宗教体験の入り口として積極的に指向する人にとっては、抵抗無くスイスイ読めて、さらにそうした指向を強める助けとなる本でもあるような気がしました。

 冒頭に自ら神秘体験を書いているのは、中沢新一氏が『チベットのモーツァルト』('83 年)の中で、チベット仏教の修行中に空中歩行を為し得たことを書いているのと少し似ていますが、この本の持っている雰囲気は、「オウム真理教」に入った人たちが嵌まった神秘主義というよりも、'50年代頃のビートニク世代の指向に近い感じがします(アレン・ギンズバーグの名も本書に出てくるし)。

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