【327】 ◎ 佐々木 正美 『子どもへのまなざし (1998/07 福音館書店) ★★★★★ (◎ 佐々木 正美 『続・子どもへのまなざし (2001/02 福音館書店) ★★★★★

「●育児・児童心理」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【773】 河合 隼雄 『Q&A こころの子育て

核家族化社会の中で育児不安に陥りがちな現代の子育て中の親に。

子どもへのまなざし.jpg img alt=  『子どもへのまなざし』 『続 子どもへのまなざし』 (1998/07・2001/02 福音館書店)

 著者は豊富な臨床経験を持つ児童精神科医で、日本における自閉症の研究・療育の権威でもあります。
 本書がカバーするのは胎児教育から幼児保育、初等教育まで幅広いのですが、とりわけ乳幼児期の育児の大切さを強く説いています。
 親や保母たちに語りかけるようなわかりやすい言葉で書かれていて、核家族化社会の中で育児不安に陥りがちな現代の子育て中の親は、本書を読むことで精神安定剤的な効果が得られるのではないかと思います。

 しかし語り口こそソフトですが、漠たる話を連ねているわけではなく、子どもに対する親の依存の問題、そこから派生する幼児虐待や過剰期待(早期教育)の問題とそれらに対する著者の考えを示す一方、最近の胎児学や発達心理学の研究でわかってきたことを、実例をあげて紹介しています。
 さらには、近年目立つ不登校児やすぐに「キレる」子の問題にも触れています。

 親や周囲の人の子どもへの接し方を重視し、幼児教育の諸問題を現代の社会が孕む問題と対照させながら語るところが、故松田道雄氏と非常に共通しているという印象を受けました。

 本書についての読者からの質問に答えるという形で3年後に出された『続 子どもへのまなざし』('01年)は、前著の反響の大きさを示すとともに、質問者の不安を十分に取り除くかのような懇切丁寧な回答ぶりで、新生児の母親からの隔離や母乳で育てるのがいいのかといった問題から、さらには不登校や家庭内暴力などの社会的問題、父親・母親が家庭内で果たす役割、障害児との接し方などについての、いずれも具体的な示唆に富むものでした。
 
 2冊とも表紙絵、挿画は「ぐりとぐら」シリーズの山脇百合子氏によるもので(出版社が福音館書店ということもあるのかも)、なかなか味があります。
 セットで出産祝いの贈り物にする人も多いとか。いいかも。

《読書MEMO》
●児童虐待は母親による場合が最も多く、どの事例も例外なく母親が孤独(38p)
●おかあさんが妊娠中によく歌っていた歌で子守をするとよい。(90p)
●赤ちゃんが泣いても、親が放っておけば、だんだん赤ちゃんは、泣いて訴えることをしなくなる。そういう赤ちゃんを、手のかからないいい子だと思ってしまいがちだが、そうではない(親に対する不信感と自分自身に対する無力感でそうなっているだけ)。いつまでも泣き続け自分の要求を伝えようとする赤ちゃんこそ、努力家で頑張り屋になる。(115-121p)
●文化人類学者の指摘では、人種や国とは無関係に、物質的・経済的に豊かな社会に住んでいる人間ほど外罰(他罰)的になるという(269p)
●ローナ・ウィング(英国の自閉症研究の世界的第一人者)は重症の自閉症の娘を持ったお母さん(続・323p)
●3こコマ漫画のような実験「サリーとアンの実験」について(続・325p)
●自閉症の人は、数字の並びを逆順にいうのが得意(空間的記憶)(続・337p)

1 Comment

佐々木正美(ささき・まさみ)=川崎医療福祉大学客員教授、児童精神科医)2017年6月28日、骨髄線維症で死去、81歳。教育書「子どもへのまなざし」などの著者として知られ、自閉症の子どもに対する療育プログラムの普及に努めた。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1