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「恋愛至上主義」からの脱却を説く? 読書案内としてはそれなりに楽しめた。
『もてない男―恋愛論を超えて』 ちくま新書〔'99年〕
現代の「恋愛至上主義」の風潮の中で、古今東西の文芸作品に描かれた恋愛模様を引きつつ「もてない男」の生きる道を模索(?)した、文芸・社会批評風エッセイ。
童貞論、自慰論から始まり、愛人論、強姦論まで幅広く論じられており、自らの経験も赤裸々に語っていて、あとがきにも、学生時代に本当にもてなかったルサンチマン(私怨)でこうした本を書いているとあります(帯に「くるおしい男の精神史」とあるのが笑ってしまいますが)。
著者は「もてる」ということは「セックスできる」ということではないとし、著者の言う「もてない男」とは、上野千鶴子の言う「性的弱者」ではなく、異性とコミュニケートできない「恋愛弱者」であり、彼らに今さらのように「コミュニケーション・スキルを磨け」という上野の助言は役には立たないとしています。
著者は結婚を前提としないセックスや売買春を否定し、姦通罪の復活を説いていますが、その論旨は必然的に「結婚」の理想化に向かっているように思え、そのことと切り離して「恋愛至上主義」からの脱却を説いてはいるものの、「結婚」という制度の枠組みに入りたくても入れず落ちこぼれる男たちに対しては、必ずしも明確な指針を示しているようには思えませんでした。
30代後半で独身の著者が書いているという切実感もあってか、若い読者を中心に結構売れた本ですが、書き殴り風を呈しながらも、結構この人、戦術的なのかも。
著者はその後結婚しており、「もてない男」というのはひとつのポーズに思えてなりません。
もともと、「恋愛至上主義」を声高に否定しなければならないほど、すべての人が同じ方向を向いているようにも思えないし...。
ただ、引用されている恋愛のケースの典拠が、近代日本文学から現代マンガまで豊富で、それらの分析もユニーク(章ごとに読書案内として整理されていて、巻末に著者名索引があるのも親切)、論壇の評論家やフェニミストの発言にもチェックを入れていて、軽妙な文体と併せてワイドショー感覚でそれなりに楽しめました。