【232】 ○ 坂本 多加雄/秦 郁彦/半藤 一利/保阪 正康 『昭和史の論点 (2000/03 文春新書) ★★★☆

「●日本史」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【936】 秦 郁彦 『なぜ日本は敗れたのか
「●文春新書」の インデックッスへ「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(秦 郁彦・半藤一利・保阪正康) 

「歴史探偵」的趣きの鼎談。歴史の違った見方を教えてくれる。

昭和史の論点.jpg  『昭和史の論点』 文春新書 〔'00年〕 坂本 多加雄.jpg 坂本 多加雄 (1950−2002/享年52)

 雑誌『諸君!』で行われた4人の昭和史の専門家の鼎談をまとめたもの。文芸春秋らしい比較的「中立的」な面子ですが、それでも4人の立場はそれぞれに異なります。

日本史の論点 4氏.jpg 『国家学のすすめ』('01年/ちくま新書)などの著者があり、52歳で亡くなった坂本多加雄は「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーでもあったし、秦郁彦は「南京事件」に関しては中間派(大虐殺はあったとしているが、犠牲者数は学者の中で最も少ない数字を唱えている)、半藤一利は『ノモンハンの夏』('98年/文藝春秋)などの著書がある作家で、保阪正康は『きけわだつみのこえ』に根拠なき改訂や恣意的な削除があったことを指摘したノンフィクション作家です。

坂本 多加雄/秦 郁彦/半藤 一利/保阪 正康

 しかし対談は、既存の歴史観や個々のイデオロギーに拘泥されず、むしろ「歴史探偵」的趣きで進行し、張作霖事件、満州事変、二・二六事件、盧溝橋事件...etc.の諸事件に今も纏わる謎を解き明かそうとし、またそれぞれの得意分野での卓見が示されていて面白かったです(自分の予備知識が少なく、面白さを満喫できないのが残念)。

 昭和史と言っても敗戦までですが、最近になってわかったことも随分あるのだなあと。昭和天皇関係の新事実は、今後ももっと出てきそうだし。

 歴史に"イフ(if)"はないと言いますが、この対談は後半に行くに従い"イフ(if)"だらけで、これがまた面白く、歴史にはこういう見方もあるよ、と教えてくれます。

 その"イフ(if)"だらけを一番に過激にやっているのが秦郁彦で、やや放談気味ではありますが、こうした立場を越えた自由な鼎談が成り立つのは、月刊「文芸春秋」の編集長だった半藤一利に依るところが大きいのではないかと思います。

菊池寛賞 半藤.jpg

秦郁彦氏が1993年に、保阪正康氏が2004年に「菊池寛賞」を受賞していたが、2015年に半藤一利氏も同賞を受賞した。文藝春秋主催の賞で、半藤一利氏は半ば身内のようなものだから、受賞が他の二人より遅れたのではないか。(受賞理由:『日本のいちばん長い日』をはじめ、昭和史の当事者に直接取材し、常に「戦争の真実」を追究、数々の優れた歴史ノンフィクションによって読者を啓蒙してきた)
 

・2015(平成27)年・第63回「菊池寛」賞を受賞し、同時受賞の吉永小百合(左)と言葉を交わす半藤一利氏=2015年12月(共同)

1 Comment

半藤一利(はんどう・かずとし)ジャーナリスト、戦史研究家、作家。
2021年1月12日午後、東京都世田谷区の自宅で倒れているのが見つかり、死亡が確認された。関係者への取材で分かった。90歳。東京都出身。昭和20年8月15日の玉音放送に至る24時間を綿密な取材で再現した「日本のいちばん長い日」などの作品で知られ、昭和の歴史を読みやすい文章でつづった「昭和史」は、ベストセラーになった。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年8月21日 12:03.

【231】 ○ 三谷 一馬 『江戸商売図絵』 (1995/01 中公文庫) 《(1963/05 青蛙房)》 ★★★★ was the previous entry in this blog.

【233】 ○ 田中 伸尚 『靖国の戦後史』 (2002/06 岩波新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1