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オーソドックスな解説と雇用システム、人事制度に踏み込んだ提案。
『日本型ワークシェアリング』 PHP新書 〔'02年〕
本書ではワークシェアリングを4タイプに分けて解説していて、内容はオーソドックスですがそれもそのはず、著者は、厚生労働省の「ワークシェアリングに関する研究会」の学者メンバーとして、本書でも紹介されている調査研究報告書(2001年4月。インターネットでも概要の閲覧が可能)の作成に携わった労働経済が専門の人です。
著者の主張は、失業増への対策としての「緊急避難型」ワークシェアリングは不可欠だが、長期的には「多様就業促進型」を見据えよ、というもので、現在それを阻害するものとして「残業の恒常化」と「パートと正社員の賃金格差」をあげています。
単に問題点を指摘するだけでなく、先行企業の取り組み事例などを紹介し、「雇用システムの多元化」(正社員とパートの間に中間層を設けることなど)を提唱し、またワークライフバランスを考慮した「ファミリーフレンドリー」企業を目指すことを提案するとともに、育児休業の支援策などとして「短時間正社員」(パートとフルタイムを往来できる正社員)などの制度を具体的に提案しています。
著者の人事制度に踏み込んだ提案に共感するとともに、やはり個人的には、パートと正社員の賃金格差が、現実問題として大きいのではという気がします。
欧州ではパートと正社員の時間当たりの賃金格差が違法とされている国も多いということですが、日本ではどれだけ「私」を犠牲にして会社に貢献しているかが、賃金の時間単価にまで影響しているのではと思いました。
厚労省は、この本の出版前から毎年「ファミリー・フレンドリー企業表彰」を実施していますが、こういうことも、まだ充分に知られていないのではないでしょうか。
《読書MEMO》
●ワークシェアリングの4つのタイプ
ⅰ 雇用維持型(緊急避難型)...1人当たりの労働時間を減らして仕事を分け合い、雇用を維持していくタイプ。
ⅱ 雇用維持型(中高年雇用維持型)...ⅰを中高年に限定し、定年後の雇用対策として行なうタイプ。
ⅲ 雇用創出型...国または企業単位で労働時間を短縮し、マクロ経済全体として雇用を増やすタイプ。
ⅳ 多様就業対応型...フルタイム以外に、多様なパターンの就業を可能にするタイプ。