【3176】 ○ 今村 昌平 「豚と軍艦 (1961/01 日活) ★★★★

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今村「重喜劇」の代表作。大島渚の「太陽の墓場」と似た雰囲気を感じた。

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日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 豚と軍艦 HDリマスター版 [DVD]」長門裕之/吉村実子
「豚と軍艦」14.jpg 水兵相手のキャバレーが立ち並ぶ町の中心地ドブ板通り。周囲の活気をよそに。当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森(三島雅夫)一家は青息吐息の状態。そこで一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。ハワイからきた崎山(山内明)が基地の残飯を提供するという耳よりな話もある。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの"日米畜産協会"もメドがつき始めた。そんな時、流れやくざの春駒(加原武門)がタカリに来た。応待に出た若頭で胃病もちの鉄次(丹波哲郎)の目が光る。叩き起されたチンピラの欣太(長門裕之)は春駒の死体を沖合まで捨てに行かされた。「欣太、万一の場合には代人に立つんだ。くせえ飯を食ってくりゃすぐ兄貴分だ」という星野(大坂志郎)の言葉に、単純な欣太はすぐその気になった。彼は恋人の春子(吉村実子)と暮したい気持でいっぱいなのだ。春子の家は、姉の弘美(中原早苗)のオンリー生活で左団扇だったが、彼女はこの町の醜さを憎悪し、欣太に地道に生きようと言っては喧嘩になった。ある夜、吐血して病院に担ぎこまれた鉄次がそのまま入院となり、日森一家の屋台骨はグラグラになる。会計係の星野が有り金を持って消え、崎山も前金を搾り取るとハワイに逃げてしまった。酷い胃癌で余命三日という診断結果を受けた鉄次は、自殺する勇気もなく、殺し屋のワン(城所英夫)に自分を殺してくれとすがりつく。だがこれは間違いで、鉄次は単なる胃潰瘍だった。鉄次は、間違いを喜ぶよりもワンに殺される恐怖に再び血を吐く。欣太と激しく口喧嘩をした春子は町に飛び出し、酔った水兵に嬲りものにされる。日森一家は組長の日森と、軍治(小沢昭一)・大八(加藤武)とに分裂、両者とも勝手に豚を売りとばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命じた。欣太は豚を積み込む寸前に先回りした日森らに捕まってしまう。豚を乗せ走り出す日森のトラック群。それを追う軍治らのトラック。六分四分で手を打とうという日森だったが、欣太はもう騙されないと小型機関銃をぶっ放す。ドブ板通りには何百頭という豚の大群が溢れる―。

「豚と軍艦」poster.jpg「豚と軍艦」ny1.jpg 今村昌平監督の1961年公開作で、今村「重喜劇」の代表作とされる作品であり、1961年度・第14回「ブルーリボン賞(作品賞)」受賞作。マーティン・スコセッシ監督がこの映画を学生時代に観て「衝撃を受けた」と語っているという話は有名です。そう思うと確かに〈ピカレスクもの〉としては「グッドフェローズ」('90年/米)などに通じるところもあるし、一方、長門裕之(競演の南田洋子とはこの年に結婚)と吉村実子(今村昌平にスカウトされての映画初出演。「にっぽん昆虫記」にも出ている)のカップルはまさに「どぶの中の青春」という感じで(つまり〈青春もの〉でもある)、2012年に日活創立100周年記念として過去の日活映画を上映した「日活映画 100年の青春」企画でも、上映作品のラインアップにこの作品がありました。

「豚と軍艦」6.jpg 基本的にコメディですが普通のコメディと少し違い、「重喜劇」は単に重いのではなく、軽快な喜劇の逆であるということ、つまり「鈍重な喜劇」だということだそうです。豚を巡るブラックユーモアは、そのまま戦後日本の状況的な寓意になっていて、「米軍基地から出る残飯でやくざが豚を飼い、大儲けをたくらむ」という簡単なプロットから、戦後世界の中で軍艦(軍事的身分)を保持できなかった日本人が、豚(寄生的な家畜)として生きる姿を描いているともとれます。
  
小沢昭一/加藤武/長門裕之/丹波哲郎/大坂志郎
「豚と軍艦」ierba.jpg 神経を逆撫でするギャグが頻出し、丸焼きにした豚の肉片から人の入れ歯が見つかり、ヤクザの一人(加藤武)が殺害したお尋ね者の死体を土に埋めずに豚の餌の中に混ぜ込んだと言うと、鉄次(丹波哲郎)ら一同が嘔吐するといった場面と「豚と軍艦」丹波哲郎 j.jpgか、また、鉄次が、末期ガンで三日と持たないと伝えられ、発作的に鉄道自殺を企てるも直前で思い止まり、列車をやり過ごした直後にしがみついていたのが生命保険の看板だったとか―(だいたい強面な役が多い丹波哲郎が、ここではドスを効かせながらも喜劇的な部分をかなり担っているのが興味深く、この点も「重喜劇」故か?)。

 個人的には、前年公開の大島渚監督の「太陽の墓場」('60年/松竹)と似た雰囲気を感じました。「太陽の墓場」は大阪(西成地区か)が舞台で、主人公のチンピラ役は川津祐介で、愚連隊の会長役は長門裕之の弟・津川雅彦でした。皆が殺し合って、最後に残ったのは炎加世子演じるヒロインでしたが、この「豚と軍艦」でも、ラストの狂騒の中、警官に撃たれた欣太は路地裏でひっそり命を落とし、数日後、一人になった春子は未来を見据えて堂々と家を出ていきます。どちらの映画の女性も強い―。誰か、「太陽の墓場」と「豚と軍艦」を比較して論じている人はいないのかなあ。

「豚と軍艦」yokosuka.jpg 何年か前に横須賀に行って横須賀本港と、海上自衛隊の司令部がある長浦港をめぐり、日米の艦船を見学するクルージングツアーに参加しました。艦船の中にイージス艦2隻が泊まっていましたが、2隻で計約5000億円するそうな。新国立競技場の 建設「豚と軍艦」m.jpg費用が約1600億円だから、1隻の費用だけで新国立競技場の建設費を上回ることになります。ほかに「豚と軍艦」cb.jpgも猿島や三笠公園、海軍カレーの店などに行ったりし、「どぶ板通り商店街」も行ったはずですが、なぜかあまり印象に残らなかったです(観光スポット化して小ざっぱりしすぎていた?)。

「豚と軍艦」●制作年:1961年●監督:今村昌平●製作:大塚和●脚本:山内久「豚と軍艦」ny2.jpg●撮影:姫田真佐久●音楽:黛敏郎●時間:108 分●出演:長門裕之/吉村実子/三島雅夫/丹波哲郎/大坂志郎/加藤武/小沢昭一/南田洋子/佐藤英夫/東野英治郎/山内明/中原早苗/菅井きん/加原武門/青木富夫/西村晃/ 初井言栄/高原駿雄/神戸瓢介/矢頭健男/殿山泰司/城所英夫/武智豊子/河上信夫/玉村駿太郎/中川一二三/福田文子/奈良岡朋子●公開:1961/01●配給:日活●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-06-14)(評価:★★★★)

吉村実子/長門裕之

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「豚と軍艦」奈良岡.jpg 奈良岡朋子(ホテル「チェリィ」の女将)

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