【3137】 ○ 松本 清張 「誤差」―『誤差―松本清張短編全集〈9〉』 (1964/11 カッパ・ノベルス)《誤差」―『駅路』 (1961/11 文藝春秋新社)》 ★★★★

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シンプルで上手い。ドラマ版は話を膨らませているが原作の良さが効いている。

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誤差―松本清張短編全集〈9〉 (カッパ・ノベルス)』(装飾評伝・氷雨・誤差・紙の牙・発作・真贋の森・千利休)「松本清張 没後25年特別企画「誤差」」['17年/テレビ東京]村上弘明/剛力彩芽/陣内孝則

駅路』(1961/11 文藝春秋新社)(駅路・誤差・部分・偶数・小さな旅館・失踪)

『誤差』001.jpg『誤差』000.jpg 夏の終わりが近いある日、東海道から山に入った鄙びた温泉宿「川田屋」に、都会風の美貌の女性が現われた。安西澄子と名乗ったその女性は、あまり話をしたがらない様子を見せていたが、三日目に安西忠夫と名乗る長身の紳士が現われ、澄子と合流した。しかしその三日後、書店から夕方17時前に温泉宿に戻った紳士は、仕事で一時宿を離れる、家内はよく睡っているから誰も入らずにそのままにしてほしい、と言い残して17時半過ぎに宿を発った。その二時間後、澄子の死体が部屋から発見された。当初、現場に到着した警察の嘱託医が述べた死後推定時間からは、死亡時刻が15時から16時の間との見解が得られた。続いて死体が解剖されたが、担当の病院長が述べた死後推定時間からは、死亡時刻が17時過ぎとの見解を得た。二人の医師の見解には差があったが、病院長は嘱託医の見解を、誤差と指摘した。警察としても、死亡時刻を17時過ぎとする病院長の見解のほうが、忠夫が澄子を殺したのち逃走という推定に合致し、満足すべきものであった。捜査が進み、川田屋に泊まった紳士の本名は竹田宗一と判明、山岡刑事は東京に出張するが、まもなく竹田の首吊り死体が遺書と共に発見され、事件は容疑者の自殺で幕を閉じたかに思われた―。

 松本清張の短編小説で、「サンデー毎日(特別号)」'60(昭和35)年10月号に掲載、翌年10月に短編集『駅路』収録の1編として、文藝春秋新社より刊行され、その後、『誤差―松本清張短編全集〈9〉』(' 64年/カッパ・ノベルス)に表題作として収められています。

 法医学における死亡推定時刻の"誤差"に、人間心理の思い込みによる"錯誤"を重ねて、かつ男女の微妙な愛の心理も絡めていて、それでいてシンプルで上手いと思います。カッパ・ノベルス版の作者本人のあとがきによれば、ある法医学者の話からヒントを得たとにことで、科学がどれだけ発達しても、まだ人間の判断に拠らざるを得ない部分がどうしても残ること(扱う人によって差も出ること)を如実に表わしているように思いました。

「誤差」20171.jpg 1962年にNHKでドラマ化されて以来ずっとドラマ化されていませんでしたが、2017年に村上弘明×剛力彩芽×陣内孝則の共演で55年ぶりに「松本清張没後25年特別企画 『誤差』」のタイトルでテレビ東京でドラマ化されました(メインキャスト3人は、2015年の「開局50周年特別企画 黒い画集―草―」、2016年の「松本清張特別企画 喪失の儀礼」に続いての共演)。

「誤差」2017t .jpg 2017年の村上弘明版は、最初に安西澄子の絞殺体が見つかるところから始まって、関係者の証言を集めながら、事件4日前に澄子が来泊したところから振り返ってみるという作りになっていて、捜査は難航しますが(原作より複雑になっている)、原作のようにいったん事件が解決したかに見えた後で刑事の山岡が事の真相に気づくというものではなく、山岡は部下の女性刑事を従え、紆余曲折ありながら最後一気に犯人に辿り着きます。以下、あらすじは―
  
「誤差」201710.jpg 山梨県にある温泉宿「川田屋」で、ある夜、安西澄子(田中美奈子)の絞殺体が宿泊していた離れで発見される。山梨県警の山岡慶一郎(村上弘明)は、部下の伊崎美里(剛力彩芽)と共に現場へ急行する。身元がわかるものは一切残されていなかったが、金品は手つかずのまま。女将の川田沙織(水沢アキ)によると、澄子は4日前から夫の忠夫と一週間滞在する予定だったが、忠夫は仕事が入り昨日合流したばかり。今日は忠夫のみ一旦外出。戻ったあと「家内はよく眠ってるから、そっとしておいてほしい」と連絡を入れて再び外出してしまったという。なぜか担当仲居の鵜飼理沙子(齋藤めぐみ)の姿も見当たらない。一方、澄子を解剖した法医学教授・立花亮介(陣内孝則)は吉川線と呼ばれる傷を発見するが、その傷に気になる点を見つける。山岡と美里が湯治客全員を聴取すると、ファーコートを着た怪しい女性を目撃したとの情報が。また宿帳に書かれた〈安西夫妻〉の住所と氏名はデタラメだと判明。安西夫婦は、またファーコートの女性は、誰なのか? そして一連のニュースを東京の街角のモニターで見つめる謎の女(松下由樹)の正体は? そんな中、鵜飼理沙子の遺体が発見され事件はさらに混迷していく―。

「誤差」20173.jpg 以上のように、犯行現場を目撃したと思われる仲居も殺害されるため、原作より被害者が1人多いです。さらに、〈安西夫妻〉の片割れの竹田宗一と併せて、澄子に貢いでいた信金金庫の融資係の男性も疑われるなど、容疑者も増えています。また、竹田の本当の妻が澄子が殺害される前に、澄子を「川田屋」に訪ねて宗一と別れるよう直談判するという場面もあり、〈男女の微妙な愛の心理〉の部分もかなり拡大しています。さらに、病院医師と山岡が、最初はぶつかるが、最後は真実を求めて共闘するという、その部分のドラマ的要素もあります。
 
「誤差」20172.jpg 随分盛りだくさんですが、それらはそれらでまずまず面白く、観ていてシラける感じはありませんでした。それもこれも、原作のプロットが効いているからでしょう。意図せずに生まれた時間差トリックと言うか、だからこそ"誤差"であるわけですが、そこが良く出来ているから、そこから話を膨らますこともできるし、膨らましてもそのプロットさえ活かせば駄作にはならず、まずまずの作品に仕上がるということではないかと思います。

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「松本清張没後25年特別企画 誤差」●監督:倉貫健二郎●脚本:深沢正樹●原作:松本清張●出演:村上弘明/剛力彩芽/陣内孝則/松下由樹/小市慢太郎/田中美奈子/酒井美紀(友情出演)/宮川一朗太/橋爪遼/宍戸美和公/齋藤めぐみ/久保田磨希/矢柴俊博/三田村賢二/矢野浩二/細川ふみえ/螢雪次朗/水沢アキ/左とん平(友情出演)●放送日:2017/05/10●放送局:テレビ東京

【1964年ノベルズ化・2003年改版[カッパ・ノベルズ]/2009年再文庫化[光文社文庫(『誤差―松本清張短編全集(09)』)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2022年4月11日 00:28.

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