【3087】 ○ 木下 惠介 (脚本:新藤兼人) 「お嬢さん乾杯! (1949/03 松竹大船) ★★★★

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テンポいい恋愛コメディ。原節子を美しく撮っていて、新藤兼人脚本の妙もあり。

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木下惠介生誕100年 「お嬢さん乾杯」 [DVD]」['12年]原 節子(当時28歳)
お嬢さん乾杯! [DVD]」['09年]
お嬢さん乾杯!d1.jpgお嬢さん乾杯!03.jpg 自動車の修理業をやっている石津圭三(佐野周二)に得意先の佐藤専務(坂本武)が縁談を持ち込む。相手は池田泰子(原節子)という華族の令嬢。提灯に釣り鐘だと圭三は問題にしないが、熱心な佐藤に口説かれてとにかく見合いすることに。実際会ってみると泰子は予想した高慢なお嬢さんでなく、圭三はすっかり好きになる。佐藤から結婚承諾の返事を聞いた圭三は上機嫌。新調の服と靴、派手なネクタイを締め池田家を訪問する。圭三は泰子の家族に紹介されるが、皆いい人ばかり。だが、家族の中で一人だけ欠けているのが泰子の父・浩平(永田靖)で、浩平は詐欺事件の側杖で刑務所にいた。さらには、泰子のかつての婚約者は戦争で他界していお嬢さん乾杯!04.jpgたのだった。そして池田邸も百万円の抵当に入ってその期間はあと三月だと佐藤から聞いた圭三は、金のための結婚だったかと失望するが、泰子への愛情は深まる。泰子の誕生日を祝って圭三はピアノを泰子に贈る。泰子の弾くショパンの曲が良いのか悪いのか判らない圭三は、声を張り上げて故郷の民謡を歌う。圭三と泰子は刑務所に父を尋ねる。父の口から「金のための結婚はするな」と忠告されて泰子の心は重い。そぐわない雰囲気のまま別れた圭三は、自分と泰子は違う世界の人と感じる。圭三はその翌日、泰子に心の中を打ち明けてくれと頼む。その返事は愛情のない結婚に悩む泰子の姿だった。泰子は結婚すれば愛することも出来ようと考え、圭三に自分の我儘を詫びる。披露宴の日、泰子との結婚は無理だと思った圭三は、泰子に手紙を残して帰る。田舎へ行くという圭三。泰子は、圭三の弟・五郎(佐田啓二)の運転で圭三を追う―。
お嬢さん乾杯!
お嬢さんに乾杯 09.jpg 1949(昭和24)年3月公開の木下惠介監督作で、脚本は新藤兼人。没落した上流階級の令嬢と、戦後に台頭した新興成金の恋を描いたロマンティック・コメディ映画です。明るく快テンポの都会喜劇であり、封切り当時大ヒットしたとのこと。都合よすぎるとか、どうで予定調和だろうとか思いつつも、過程においてハラハラさせられて引き込まれてしまいます(第23回キネマ旬報ベスト・テン第6位)。

 金目当てに仕組まれた縁談と言っても、圭三だってまだ一自動車修理業者にすぎません。戦後間もない頃で、成長が期待される新興産業の一つだったのでしょうか。圭三が泰子やその家族に対して身分コンプレックスを感じながらも、自分には金を稼ぐ才覚があると信じて疑っていないところが楽天的。

 圭三の暮らす部屋も割とモダンで何だかアメリカ映画を想起させ、窓から見える外の景色も明るく、何だかフランス映画を連想させられます。当時は戦争が終わって3年余りでしたが、もう既に、欧米に追いつけ追い越せという日本の気運のようなものが勃興していたのではないかと思われます。

お嬢さんに乾杯 10.jpg 圭三は泰子に誘われ帝劇へバレエ見物に出かけ、初めて見る世界に感涙し、その帰途に圭三の誘いで立ち寄ったボクシングの試合で、今度は泰子も興奮するという(このあたりの演出は巧み)、まあ、こうした感性の一致こそが、所謂"相性"というものなのだろうなあと思う一方、戦後、華族と平民の垣根が取っ払らわれたことを象徴しているようにも思われました(バレエ鑑賞の時は余裕の泰子に対して圭三は前のめりになっていて、一方、ボクシング観戦の時は泰子の目が爛々と輝いていて、それを見た圭三は自分で誘っておきながら戸惑っているように見えるのが可笑しい)

 物語は圭三(佐野周二)と泰子(原節子)の恋愛の行方と並行して、圭三の弟・五郎(佐田啓二)とその恋人との恋愛の方もサイドストーリーとして進行し、圭三が泰子に抱く身分コンプレックスが、そのまま五郎とその恋人との結婚に反対する姿勢に反映されていて、観ていて、ああ、これは最後にダブルでハッピーエンドになるのだろうなあと分かってしまうのですが、まあ、そのプロセスを気軽に愉しむ作品ということでしょう。

お嬢さん乾杯!兄弟.jpgお嬢さん乾杯  佐田佐野2.jpg 佐田啓二(1926年生まれ)は佐野周二(1912年生まれ)より「佐」「ニ」の二字を貰って芸名にしたそうですが、この二人を兄弟役で見られるのは今や貴重かも。そのやり取りは非常にしっくりきています。

お嬢さん乾杯!06.jpg ただ、この二人を脇に押しやっているのが泰子を演じる原節子の圧倒的な存在感で、まさに「お嬢さん」という感じ。しかも、ややバタ臭さのあるその表情がこの作品に合っており(ものすごく美しく撮っていお嬢さん乾杯  ハラ.jpgる)、演技もまずまずでした(と言うか、原節子はこの作品で第4回毎日映画コンクール 女優演技賞を受賞している)。圭三の馴染みのバーマダムに「あんな好い人と結婚しないなんて女じゃありませんよ!」と説教を受け、「あんた、佐野さんのことをどう思っているの?」との問いに、ありきたりに「好きです」と答えるのではなく、マダムの"言語指導"に沿ってに「惚れております」ときっぱり言い切るところがユーモラスでかつ可憐(新藤兼人脚本の妙か)。これがこの映画もクライマックスでしょう。

お嬢さん乾杯!vhs.jpg 原節子をが出演している木下惠介作品はこの1本だけであることが不思議。あの、女性を撮るのが下手と言われた黒澤明さえ、「わが青春に悔なし」('46年/東宝)で原節子を使った後、そう好評でもなかったのに「白痴」('51年/松竹)でまた使っているのに。木下惠介はやっぱり高峰秀子なのでしょうか。

「お嬢さん乾杯!」●制作年:1949年●監督:木下惠介●製作:小出孝●脚本:新藤兼人●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:89分●出演:佐野周二/原節子/青山杉作/藤間房子/永田靖/東山千栄子/森川まさみ/増田順二/佐田啓二/佐藤成子/坂本武/村瀬幸子/楠田薫/町田旬子/石田淑子/高松栄子/泉啓子/山本多美/勅使河原幸子/向山和子/宮崎義子/長尾寛/加藤清一●公開:1949/03●配給:松竹大船.(評価:★★★★)

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