【3086】 ○ 瀬戸内 寂聴 (画:横尾忠則) 『奇縁まんだら 続 (2009/05 日本経済新聞出版) ★★★★

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横尾忠則氏の描く肖像画がいい。文庫化されていないが、内容的には『正』より面白い。

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奇縁まんだら 続』['09年]瀬戸内寂聴・権大僧正/横尾忠則氏

『奇縁まんだら 続』図2.jpg 昨年['21年]11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴(1922-2021)(僧階は「権大僧正」で、これ最高位の「大僧正」に次ぐものだそうだ)が、'07年から日本経済新聞朝刊に毎週(当初土曜、後に日曜)連載していた、彼女自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本で、全部で4集あります。

 '08年刊行の『正』とでも言うべき第1集では、作家20人と芸術家1人との出会いや交際の様子がそれぞれ短くスケッチされていましたが、登場する人物が、島崎藤村、正宗白鳥、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、佐藤春夫、舟橋聖一、丹羽文雄、稲垣足穂、宇野千代、今東光、松本清張、河盛好蔵、里見弴、荒畑寒村、岡本太郎、檀一雄、平林たい子、平野謙。遠藤周作、水上勉と超大物揃いで、著者は連載スタート時で既に85歳くらいだったし、登場する人物の多くはその頃は既に亡くなっていてものの(丹羽文雄は2005年100歳まで生きたが、70代から認知症を患っていた)、どことなくそれぞれの描写に遠慮があるように思われました。

 それがこの第2集『続』では、まさに著者と同時代を生きた作家や芸術家が中心になっていて、芸能人まで含めて28人が取り上げられていますが、こちらの方が第1集よりも面白いのではないかという気がします(ただし、どういうわけか第1集だけが「日経文芸文庫」で文庫化されていて、残りは文庫化されていない)。

 この『続』は、'08年の1月から12月連載分を所収しており、取り上げている人物は、菊田一夫、開高健、城夏子、柴田錬三郎、草野心平、湯浅芳子、円地文子、久保田万太郎、木山捷平、江國滋、黒岩重吾、有吉佐和子、武田泰淳、高見順、藤原義江、福田恆存、中上健次、淡谷のり子、野間宏、フランソワーズ・サガン、森茉莉、萩原葉子、永井龍男、鈴木真砂女、大庭みな子、島尾敏雄、井上光晴、小田仁二郎。

 やはり連載時点で既に亡くなっていた人がほとんどで、エッセイの末尾は墓の写真などが添えられていて、レクイエムのようなトーンになっているものが多いですが(著者が僧侶であることも影響していると思うが)、第1集に比べ、著者と登場人物との間により深いコンタクトがあった分、興味深く読めました。

菊田一夫.jpg 一番面白かったのは、前エントリーで取り上げた映画「放浪記」の戯曲版の原作者でもある、冒頭の「菊田一夫」でしょうか。旅行に行くときいつも空手で出掛けて、帰りは大きなトランクを買い込み、「別れた女」たちへのお土産をいっぱい買って帰るという―。空港の税関でトランクを開けられたら、カラフルな女のパンティでいっぱいだったというのには笑いました。

 昔の人はちょっとスケールが違うというか。高度成長期以降の昭和の匂いも感じられました。そして何よりも横尾忠則氏の描く色鮮やかな独特のタッチの肖像画。画伯が敬愛する著者のために全力で創作に取り組んでいるのが伝わってきました。続きも読んで(見て)みたくなります。

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