【3003】 ○ ヴェルナー・ヘルツォーク 「アギーレ/神の怒り」 (72年/西独) (1983/02 大映インターナショナル) ★★★★

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「こんなリーダーはいやだ」の典型(笑)。実在のアギーレは映画よりヒドかった?

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アギーレ/神の怒り [DVD]」クラウス・キンスキー

アギーレ/神の怒り f.jpg 16世紀、スペインは、伝説の黄金郷エルドラドを求めて南米大陸に遠征隊を派遣していた。1560年、ゴンサロ・ピサロの指揮のもと、キトからアンデスの山に向かっていたスペインの探検隊も、エル・ドラドの発見を目指して険しい道を行っていた。12月25日、アンデスの最後の尾根まで進んだ部隊は孤立し、隊長のピサロは食料の調達と情報収集をする40名のアギーレ/神の怒り u.jpg分遺隊を選び出す。もし1週間以内に戻らなければ、残りの遠征隊は引きあげるとピサロは決定する。隊長にはウルスア(ルイ・ゲーハ)、副隊長にアギーレ(クラウス・キンスキー)、キリスト教アギーレ/神の怒り 4.jpg布教のための宣教師にカルバハル(デル・ネグロ)、スペイン王家の代表として貴族のグスマン(ペーター・ベルリング)、さらにウルスアの愛人イリス(ヘレナ・ロホ)とアギーレの娘フローレス(セシリア・リヴェーラ)も分遺隊に同行し、筏で川を下ることになる。しばらく行くと、その分遣隊も撤退を余儀なくされる。しかし、副隊長のアギーレは反乱を起こし、貴族グスマンを皇帝に擁立して独立を宣言。そのまま彼らはエルドラドを目指して出発する。筏で川を下るアギーレ一行は徐々に追い詰められていく―。

アギーレ/神の怒り k.jpg ヴェルナー・ヘルツォーク監督の1972年監督作で、ヴェルナー・ヘルツォークは30歳でこの作品を撮ったことになります。狂気染みたアギーレという男と彼に率いられる集団を描いたこの作品は、1975年のフランス映画批評家協会賞(外国語映画賞)を受賞し、2005年にはタイム誌が選ぶ歴代映画ベスト100に選出されています。黄金に憑かれた人間アギーレの、時に滑稽なまでの狂気を描いて秀逸ですが、最近観直してみて、組織心理学的にみても怖い話だなあと思いました。長年のサラリーマン生活を経て観直すと、こういう視点になるのでしょうか。アギーレって「こんな上司(リーダー)はいやだ」の典型でした(笑)。

 それにしても、このアギーレの無茶苦茶ぶりが凄いです。1561年1月6日(映画は、宣教師の日記として語られるスタイルをとる)、分遺隊の40名は4隻の筏に分乗して出発しますが、途中の急流で1隻が渦に巻き込まれ、岸壁から動けなくなります。1月6日、隊長のウルスアは兵士7人とインディオ2人を救助しようとしますが、副隊長のアギーレはこれに反対し、夜中に筏の上の仲間を部下に銃殺させ(何でもアギーレの言うことを聞く殺し屋みたいな部下が不気味)、さらに遺体を収容させないため、筏に大砲を撃ち込みます。

 結局、アギーレは最初からピサロに反逆し、エルドラドを自ら征服するつもりだったということになります。アギーレは暴力でウルスアとその部下を黙らせ、貴族のグスマンを新たな隊長に据え、公然と国への反逆宣言をして、グスマンをまだ見ぬエルドラドの皇帝に即位させるという、まさに暴挙に出ます。

アギーレ/神の怒り5.jpg その後も、救世主として歓迎してくれた現地人を黄金の在りかを知らないというだけで殺し(これには宣教師も噛んでいる)、ウルスアの処刑を許さなかったグスマンが亡くなるや否やウルスアを絞首刑に処し、アギーレの横暴と先住民の恐怖に恐れをなして逃亡計画を口にした隊員の首を撥ね...と、ますます狂気をエスカレートさせていきます。やがて、先住民の襲撃にも遭って次々に死んでゆく仲間の中で「俺こそ怒れる神だ!」と独り息巻くも、朽ちた筏の上に立つ彼の足元には、夥しい数の野生の猿がいるばかりで、これが彼の「夢の王国」なのかと―。どうみても彼の辿り着く先は、輝く黄金郷などはなく、惨めな死だろうという予感のもと、映画は終わります。

ロペ・デ・アギーレ.jpg ところで、実在したロペ・デ・アギーレという人物もこんな感じだったのでしょうか。調べてみると、本国にいた時は、自分に鞭打ちの刑を宣告した裁判官にストーカー行為を繰り返すなどしたそうで、もともとパラノイア的性格だったようです。このエルドラドを探す遠征の過程で隊長のウルスアを殺害し、貴族グスマンを傀儡としたのは事実のようです。さらに、スペインからのペルー国独立を宣言し、遠征に同行した宣教師、ウルスアの妻、グスマンにも死を命じたとのことです(映画よりヒドイ?)。

ロペ・デ・アギーレ(1510-1561)

 映画では最後、このまま川の上で猿に囲まれて死ぬともとれる絶望的な状況でしたが、実際にはオリノコ川を辿って大西洋岸に抜け、マルガリータ島(現ベネズエラ)のスペイン人の入植地を攻撃し、知事と女性を含む50人もの地元住民に死を命じ、彼の部下は集落を略奪したとのことです。

 さらに、1561年7月、スペイン国王フィリップ2世に自分が独立を宣言する理由を説明する手紙を送りますが、そのようなものが国王に受け入れられるはずもなく、彼はあくまで反逆者扱いのままであり、王立軍は彼の部下に恩赦を与えることによってアギーレを弱体化させ、バルキシメト(現ベネズエラ)の町でかつての彼自身の部隊によって補強された王立軍に包囲された末に捕縛され、処刑されたとのことです(包囲された際に自分の娘を殺害し、自身は銃撃に斃れたとの話もある。娘は映画では、DVDジャケットにもあるように先住民の矢に射られて死ぬ)。

 こうした激烈な人生だったため、幾つもの文学作品のモチーフになっているそうで、ヴェルナー・ヘルツォーク監督が取り上げたのも、それまでにそうした素地があったためだと思われます。ただ、これを映画にしようとは、それまで誰も思わなかったのではないでしょうか。映画冒頭の何百人もの探検隊が険しい山道を行くシーンだけでも、よくこれを撮ったなあと思わされるものでした。

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「アギーレ/神の怒り」●原題:AGUIRRE, DER ZORN GOTTES●制作年:1972年●制作国:西ドイツ●監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク●製作:ヴェルナー・ヘルツォーク/ハンス・プレッシャー●撮影:トーマス・マウホ●音楽:ポポル・ヴー●時間:93分●出演:クラウス・キンスキー/ヘレナ・ロホ/デル・ネグロ/ルイ・ゲーハ/ペーター・ベルリング/セシリア・リヴェーラ●日本公開:1983/02●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:大井武蔵野舘(84-02-18)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(21-03-09)(評価:★★★★)●併映(1回目):「愛の絆」(ハンス・W・ガイセンドルファー)

  



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和田泰明

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