【2469】 ○ 松田 定次 「国定忠治 (1946/09 大映) ★★★☆

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前半から中盤にかけて抑えに抑えている分、ラストのカタルシス効果は大きい。

国定忠治 (1946)v.jpg国定忠治 (1946) dvd.jpg  国定忠治005.jpg 国定忠治 阪東 .jpg
中国語字幕DVD     飯塚敏子(お町)/阪東妻三郎(忠治)
国定忠治 [VHS]
国定忠治Kunisada Chuji (1946).jpg国定忠治 (1946)81 .JPG 天保八年、上州一帯は大旱魃に見舞われ、このままでは大凶作になる状況。国定村をはじめ二十個村の農民は必死の雨乞を続けるが一点の雲も出ない。農民達は「粕川の水門を切れば二十個村の新田を潤せる」と水門に押しかけようとするが、国定村の忠治(阪東妻三郎)はそれを止め、粕川水門を預る博徒・島村の伊三郎(光岡竜三郎)に懇願するも聞き入れられない。忠治は農民達の困苦を見るに忍びず、江戸に出て繭買上げ助成金下附の運動に成功、その祝宴の席で代官・松井軍兵衛(市川小文治)から伊勢崎の芸者・お町(飯塚敏子)を所望国定忠治Kunisada Chuji (1946)2.jpgされる。お町はかねてから忠治を慕い、松井の手を拒んで忠治の家に押しかけ女房に入ったが二人の間は純潔だった。農民達の糧となるべき繭買上げ助成金は代官と問屋筋の共同工作によって巻き上げられ、忠治の努力も水泡に帰す。途方にくれた農民達の窓先から天狗の面を被った男が二三枚の小判を投げ込んで歩く。忠治は全財産を農民達に分け与えるなどして尽くすが、菩提寺の和尚(小川隆)から「百姓の味方になるなら百姓になれ」と教えられる。代官・松井は配下の島村の伊三郎に命じてお町を忠治の手から取り返そうとする。忠治はお町に苦衷を打ち明け、水門を開くのと引き替えにお町を渡す国定忠治83.jpg約束をし、お町は進んで代官屋敷に行く。忠治の子分・浅太郎(尾上菊五郎)はお町が変心したものと誤解し、お町を斬ろうとしてその本心を知るが、松井に斬られる。浅太郎は重傷に屈せず忠治の下に帰り、農民達の難儀を救うため天狗の面の夜盗になったことを告白。忠治一家は、代官と伊三郎の約束不履行を知り事を起こそうするが、忠治はそれを押し止め自ら代官屋敷に行って掛け合う。代官は天狗強盗の張本人として忠治を捕らえ投獄する。忠治と亡き妻との間に出来た寅次(島田照夫)という若者が水戸の農家に養われていたが、父を慕って国定村に入り忠治の身辺を見守っていた。寅次は牢獄に忍んで忠治を救おうとし、忠治の兄弟分・日光の円蔵(羅門光三郎)も来て忠治を救出、農民達のために最後の力を尽くしてくれと懇願、忠治は遂に起ち、邪魔者を蹴散らして粕川水門に駈けつける。農民もまた押し寄せ、水門を守る伊三郎等と争う。忠治は悪党等を打ち払って水門を破り、水が田を潤して農民達は歓喜する。忠治は全てをわが身一つに引き受け捕吏の手を待つべく赤城山に向かい、円蔵、お町もそれに続く。寅次も共に従いたいと乞うが、忠治は「お前は良い百姓になれ」と優しく追い返す―。

国定忠治_.jpg 1946(昭和21)年9月公開の松田定次監督作品で、阪東妻三郎(1901-1953/享年51)は丸根賛太郎監督の「狐の呉れた赤ん坊」('45年/大映京都)に続く戦後第2作(お町役は「淑女と髯」('31年/松竹蒲田)、「刺青判官」('33年/松竹シネマ)の飯塚敏子)。GHQによってチャンバラ時代劇が禁止状態にあり、片岡千恵蔵や市川右太衛門ら戦前の剣戟スターが、髷鬘に代えてソフト帽など被ってGメンものやギャングものに出ていた頃ですが(この作品と同じ松田定次監督による片岡千恵蔵主演の多羅尾伴内シリーズの第1作「七つの顔」('46年12月公開/大映)もこの頃の公開)、そんな中、"剣戟王"阪東妻三郎はこの作品で最後しっかりチャンバラをしているのが興味深いです。GHQは必ずしも全面的にチャンバラ劇を排したのではなく、農民達のために悪代官をやっつける義賊ということで、戦後民主主義の流れに沿うものとして、刀を使うのもOKとしたのでしょうか(この作品の2年後に公開された、森一生監督の股旅もの「おしどり笠」(1948/01 大映)における片岡千恵蔵さえも、刀を使わず棒で闘っているのだが)。

国定忠治 (1958).jpg 国定忠治を主人公とした映画は戦前からかなり作られていて、主なものでは、大河内傳次郎(伊藤大輔監督「忠次旅日記」('27年/日活)、山中貞雄監督「国定忠治」('35年/日活))、片岡千恵蔵(稲垣浩監督「国定忠治」('33年/千恵蔵プロ))、月形龍之介(稲垣浩監督「國定忠治 信州子守唄」('36年/マキノトーキー製作所))がそれぞれ主演したものなどがあり、阪東妻三郎自身も戦前に国定忠治を演じています(マキノ正博監督「国定忠治」('37年/日活))。戦後もこの作品のほかに何作かあって、小沢茂弘監督、片岡千恵蔵主演のもの(「国定忠治」('58年/東映)、谷口千吉監督、三船敏郎主演のもの(「国定忠治」('58年/東映))などがあります。

「国定忠治」(1958)小沢茂弘:監督/片岡千恵蔵:主演

 他の「忠治もの」があまり観る機会がなくて何とも比較できないのですが、この作品は、阪東妻三郎が畢生の名作「無法松の一生」('43年/大映京都)に出演してから3年後の作品であり、まだその勢いが続いているという印象であり、実際に大ヒットしたようです。ストーリー的にも、前半から中盤にかけて主人公である忠治はずーっと抑えるだけ抑えて交渉役に廻り、しかし結局悪代官らが約束事を守らないため、最後の最後に起ち上って悪漢どもを打ち砕くという、定番ながらもカタルシス効果の大きい作りとなっています。

国定忠治 岩波新書.jpg 映画がヒットした一方で、批評家からは歴史的リアリズムを逸脱しているとの批判があったようですが、国定忠治(本名:長岡忠次郎、1810-1850)における歴史的リアリズムというと、どこまでのことを言うのかなあ(この映画では忠治が赤城山に向かうところで終わっているため、「赤城の山も今宵限り」という場面は無い)。伊三郎の一派と諍いがあったのは史実ですが(忠治と島村の伊三郎の子孫らは「忠治だんべ会」の仲裁により'07(平成19)年の手打ち式で170年越しに和解している)、単なるやくざ同士の抗争ということにしてしまうと物語にならなくなる―ただ、実際、忠治はひとかどの人物であったようで、羽倉外記という国定村の代官も務め、水野忠邦の天保の改革に重用された役人は忠治とは対極にいた幕吏でしたが、その外記が『劇盗忠二伝』(『赤城録』)を著して、忠治が天保飢饉の際に私財を投じて飢民を救済したこと、最終的には忠治は大戸処刑場(群馬県吾妻郡)で磔刑に処せられますが、実に壮絶で見事な最期だったことなどを理由に、忠治を凡盗にあらずして劇盗と評しています(高橋敏『国定忠治』('00年/岩波新書))。
国定忠治 (岩波新書 新赤版 (685))

 長岡忠次郎が磔の刑にあってから18年後に徳川政権は崩壊し、明治維新となります。2010年に伊勢崎市で生誕200周年記念イベントが「忠治だんべ会」により企画されましたが、市長が「忠治は歴史的に評価が分かれている」と開催に難色を示し(おそらく市民からクレームがあったのだろう)、イベントは中止となっています。別に中止にまですることはないと思うけれどね。無形文化財みたいなものでしょ。むしろ、講談などで脚色されている部分も含め(そのことを織り込み済みの上)語り継いでいった方がいいのではないかという気がします。

「国定忠治」1946年.jpg国定忠治85.JPG「国定忠治」●制作年:1946年●監督:松田定次●脚本:小川記正●撮影:川崎新太郎●音楽:西梧郎●時間:71分●出演:阪東妻三郎/羅門光三郎/尾上菊五郎/原聖四郎/桜春太郎/福井隆次/島田照夫/飯塚敏子/小川隆/市川小文治/堀井幸夫/光岡竜三郎/香川良介/ 水野浩/葉山富之輔/牧竜介/猿若三吾/芝田総二/若松文雄/三浦志郎●公開:1946/09●配給:大映(京都撮影所)(評価:★★★☆)
阪東妻三郎傑作選 DVD-BOX.jpg阪東妻三郎傑作選 DVD-BOX
収録内容:
●無法松の一生(1943年/モノクロ・スタンダード/80 分)
●王将(1948年/モノクロ・スタンダード/93分)
●伊賀の水月(剣雲三十六騎)(1942年/モノクロ・スタンダード/83分)
●富士に立つ影(1942年/モノクロ・スタンダード/82分)
●剣風練兵館(1944年/モノクロ・スタンダード/87分)
●狐の呉れた赤ん坊(1945年/モノクロ・スタンダード/85 分)
●国定忠治(1946年/モノクロ・スタンダード/72分)
●月の出の決闘(1947年/モノクロ・スタンダード/78分)
●素浪人罷通る(1947年/モノクロ・スタンダード/81分)
●木曾の天狗(1948年/モノクロ・スタンダード/83分)

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This page contains a single entry by wada published on 2016年10月21日 22:27.

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