【2467】 ○ 松田 定次 「河童大将 (1944/08 大映京都) ★★★☆

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水中シーンもある、戦時中の異色の"水泳時代劇"であり、嵐寛寿郎の大映時代の代表作でもある。

河童大将 v.jpg  河童大将(1944年)2.jpg 羅門光三郎/嵐寛寿郎
「河童大将」スチール集
河童大将 スチル.jpg 海と川に囲まれた尼子氏の小城は、毛利軍に囲まれいつ攻め込まれ落城してもおかしくない状態にある。尼子氏の荒浪碇(いかり)之助(嵐寛寿郎)と早川鮎之助(羅門光三郎)は良きライバル関係にあり、敵の様子を探るため敵城への潜入を命じられるが、2人共敵に正体を見破られ、鮎之助は逃れるも、碇之助は捕らわれる。拷問のうえ緊縛されたまま水に投げ込まれた碇之助は、得意の泳法で何とか生還し、敵方の陣形を城主に伝える手柄を立て、足軽頭に出世する。新たに与えられた50人の配下と共に日夜泳法の訓練をする彼に、周囲は嘲笑するが、直属の家老だけは、周囲を水に囲まれているのだから、泳法に長けているのは重要と理解を示す。碇之助と鮎之助の幼馴染で家老の娘・小百合(橘公子)は、婚期を控え2人のライバルの狭間で気持ちが揺らいでいる。鮎之助は、敵城潜入の際に碇之助を置いて逃げたことでの周囲への負い目から、水練大会の競泳で扇り足(平泳ぎ)の日本式泳法の碇之助に対し、早抜き手(クロール)で碇之助に勝利して名誉挽回するも、鮎之助は、本当に必要な泳ぎはいかに体力を温存して水中の中にい続けることができるかだとして気に留めていない。しかし、そんな碇之助に煮え切らない思いの小百合の父は、娘の気持ちを無視して小百合の鮎之助への嫁入りを決めてしまう。やがて、敵陣からの攻勢がかかり、これに対処するには奇襲戦法しかないと、日頃鍛えた河童隊を二隊に分け、湖水を泳いで毛利軍を奇襲することに。碇之助の隊は平泳ぎ、鮎之助の隊はクロール似の早抜き手で進む。鮎之助の隊は、泳ぎは早いが水飛沫(しぶき)で敵に発見され攻撃を被る。一方、碇之助の隊は、泳ぎは遅いが静かに進むため発見されず、奇襲攻撃は成功して味方を勝利に導くとともに、手負いの鮎之助を救出する―。

 戦国時代を舞台に、水泳により水を渡り敵に奇襲をかける足軽頭の活躍を描く、水中シーンなども見られる戦時中の異色の"水泳時代劇"。1944年8月公開ということもあって、クロール隊が役に立たず、平泳ぎ(日本式泳法)隊が勝利に貢献するという設定は、日本が米英より優れていることを強調している映画とも考えられます。それにしても、毛利に攻め込まれ孤立状態となった尼子氏の城が舞台になっていることや、碇之助の、「勝とうと思えばいつでも勝てる」「負けて勝っているのだ」というセリフが、逆に当時日本軍の戦況の厳しさを物語っているようでもあり、"国策映画"としてはどうかなとも。

 山中貞夫氏によれば、"国民皆泳運動"というのが当時あって、その宣伝にも一役買っていたのではないかとのことですが(そうか、それが"水泳時代劇"が生まれるきっかけだったのか)、山中氏も、負けつつある国が奇襲戦法で勝つというストーリーは、日本人の願望を映し出しているようでもあるとしています。

 主人公・荒浪碇之助を演じた嵐寛寿郎(1902-1980)は、当時41歳。裸になるとがりがりで、まずまずのガタイの羅門光三郎(1901-没年不詳)に比べ見劣りしますが、水の中に入るとすいすいと素晴らしい泳ぎをみせます。また、剣戟においてもすごい眼光と俊敏な身のこなしでその往年のスターぶりを見せ、この作品は「海峡の風雲児」('43年/大映)と並んで彼の大映時代の代表作です。準主役の早川鮎之助を演じた羅門光三郎は戦後すぐに脇役に回りますが、嵐寛寿郎も大映から移籍した新東宝の倒産(1961年)後はどこにも所属しなかったため、晩年は殆ど脇役でした(その中でも、「網走番外地」('65年/東映)や「神々の深き欲望」('68年/日活)などでの演技が印象深い)。

山中鹿之介f.jpg 原健作演じる山中鹿之助(山中幸盛、1545?-1578)や荒木忍演じる横道兵庫助(横道秀綱、生年不詳-1570)をはじめ、吉川将監、尼子勝久あたりまでは歴史上実在した人物であり、山中鹿之助は「尼子十勇士」の筆頭であり、尼子家再興のために「願わくば我に七難八苦(艱難辛苦)を与えたまえ」と三日月に祈った逸話で知られ、横道兵庫助も「尼子十勇士」の1人とされていますが、この「尼子十勇士」の中に「荒浪碇介」「早川鮎介」などがいます。但し、このあたりになると「真田十勇士」のようなもので、架空の人物の公算が高いようです。「落ちそうで落ちない城」を舞台にしたものでは、忍城(おしじょう)を舞台にした和田竜原作「のぼう城」('12年/東宝)があり、モチーフ的には通じるものがあるように思いました。

 見た目、それほど"国策映画"っぽくないのは、娯楽映画であることに加え、主人公・荒浪碇之助の「友情」と「恋愛」の板挟みが描かれているせいでもあるかと思います。「友情」はともかく、「恋愛」の方は戦時下で基本的には"御法度"だったと思われますが、「時代劇」という背景と「水練」という国策運動に繋がるネタのもと、上手くお話の中に織り込んでしまったところに、制作陣のしたたかさが感じられました。

「河童大将」●制作年:1944年●監督:松田定次●製作:山口哲平●脚本:八尋不二●撮影:川崎新太郎●音楽:佐野顕雄●時間:64分●出演:嵐寛寿郎/羅門光三郎/橘公子/藤原鶏太/原健作/山口勇/荒木忍/嵐徳三郎/環歌子●公開:1944/08●配給:大映(京都)(評価:★★★☆)

嵐 寛寿郎 in「網走番外地」('65年/東映)/「神々の深き欲望」('68年/日活)網走番外地 嵐寛寿郎.jpg 神々の深き欲望.jpg

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