【2365】 ○ 小津 安二郎 (原作:北村小松) 「淑女と髯 (1931/01 松竹蒲田) ★★★☆

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ラブコメ色が強い作品。小津映画の原点がコメディにあったことを如実に物語っている。

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淑女と髯 [VHS]」「淑女と髯」ポスター(1932,河野鷹思(1906-1999))
 
淑女と髯01.jpg 剣道部主将で髭を生やした岡島(岡田時彦)は、剣道大会で敵の大将(斎藤達雄)に勝利した後、彼に憧れる資産家の息子・行本(月田一郎)から妹・幾子(飯塚敏子)の誕生パーティーに招かれる。そこに行く途中で、見知らぬ女性・広子(川崎弘子)淑女と髯1.jpgが不良のモガ(伊達里子)やチンピラ達からカツアゲされそうになっているのを救ってやる。行本邸でのパーティーで、バンカラな岡島は幾子やその女友達らから嫌われ、一人とり残される。その後、岡島が仕事を見つけられないでいる時淑女と髯2.jpgに、たまたま受験して落ちてしまった会社のタイピストだった広子は、岡島のアパートを訪ね、岡島に髭を剃るように勧める。岡島は広子の助言に従って髭を剃り、ホテルマンとしての仕事に就くことに成功、その礼淑女と髯3.jpgに広子の家を訪ねた岡島が帰った後、広子は、母親(飯田蝶子)に、今来ている見合いの話を断って欲しいと言い、岡島の所へ嫁に行きたいと仄淑女と髯s.jpgめかす。一方、前に広子をカツアゲしたモガは、依然スリ行為を働くなどしていたが、偶然出会った岡島に諭され、武骨だが実は優しい彼に愛情を抱くようになる。さらに、行本家の令嬢・幾子も、髭を剃った岡島にややがっかりした兄とは対照的に、髭を剃った岡島が好きになり、こちらも見合いを断って、母親(吉川満子)と一緒に岡島のアパートに会いに行く。しかし、岡島のアパートにモガが一緒に居たことで、憤慨した母親と共に帰って行く。翌朝、今度はモガと岡島が居るそのアパートを、幾子の時と同様そのことを知らずに広子が訪ねる―。

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淑女と髯 oo.png淑女と髯7.png 1931(昭6)年1月公開の小津安二郎監督作で、原作は北村小松。二枚目俳優の岡田時彦が喜劇的センスを発揮した、小津監督のナンセンス喜劇の中でも代表格とされる作品です(神保町シアターでピアノ伴奏付きで鑑賞)。

 その強さから男の友人には憧れの対象となるが、その昔気質のバンカラから女性には全然好かれない主人公の岡島が、髭を剃った途端に3人の女性から好かれてしまうという展開が、漫画チックで面白かったです。

岡田時彦  .jpg とにかく冒頭の剣道の試合シーンからギャグの連続で(審判長は突貫小僧(ノンクレジット)。宮様か何かか)、これだけ観ると、岡田時彦(1903-川崎弘子b.jpg1934/享年31)ってコメディアンだったのかと思ってしまうくらい、やや過剰気味なギャグですが、無声映画的ギャグって大体そうなのかも。髭を剃った後の岡島(岡田時彦)の変り様はそれなりの変り様ですが、そんなに美男子かというと、今の感覚で見るとそうでもなく、これも無声映画的美男子とでも言うべきものかも。一方、川崎弘子(1912-1976/享年64)は当時まだ18歳という若さだったこともあって、3年後の清水宏監督の「金環蝕」('34年)などで見せる陰のある演技にはなってお飯塚敏子.jpgらず、庶民の家の素直なお嬢さんを素で演じた感じ。資産家のお嬢さん・幾子を演じた飯塚敏子(1914-1991/享年77)は更に若く、当時16歳で、この作品がデビュー作でした(16歳で結婚話かあ)。
岡田時彦/川崎弘子
淑女と髯0.jpg この作品がそこそこに楽しめる理由は、全体のテンポが良くて、特に終盤の岡島への3人の女性の絡ませ方の同時進行が巧みであるためではないでしょうか。淑女と髭_1.jpg最後(ネタバレになるが)伊達里子(1910-1972/享年62)演じるモガが(この人、モガ専門に演じていた)、ライバル広子の確信の強さに自らの負けを認め、更生を誓って去っていくというのは話が出来過ぎな気もしますが、モガと広子が対峙して修羅場になってしまったのでは、リアリティはあったとしてもコメディとしての後味の良さは保てなかったでしょう。

淑女と髯191.png この作品に前後する「大学は出たけれど」('29年)、「東京の合唱(コーラス)」('32年)同様、不況による就職難が作品の背景にありますが、「大学は出たけれど」「東京の合唱(コーラス)」共にそうした時代背景を受けて、ユーモアの中にペーソスが漂う作品でした。一方、この「淑女と髯」は、ペーソスはやや抑え気味で、ラブコメ色が強いでしょうか。純粋コメディとして見れば、小津安二郎の初期作品、特にコメディ作品の中ではよく出来ている方と思われ、小津映画の原点がコメディにあったことを如実に物語ってくれている作品でもあるように思います(活弁付きで観たい作品)。因みに、岡島のアパートの壁にある洋画のポスターは、ライオネル・バリモア監督、キャサリン・デール・オーウェン主演で、喜劇映画シリーズで当時人気を博した2人組コメディアン「ローレル&ハーディ」も出演している「悪漢の唄(The Rogue Song)」('30年)のようです。

「淑女と髯」●.jpg淑女と髯0_.jpg「淑女と髯」●制作年:1931年●監督:小津安二郎●脚本:北村小松/小津安二郎●撮影:茂原英朗●原作:北村小松●時間:74分●出演:岡田時彦/川崎弘子/伊達里子/飯田蝶子/月田一郎/飯塚敏子/吉川満子/坂本武/斉藤達雄/岡田宗太郎/南條康雄/葛城文子●公開:1931/01●配給:松竹蒲田(松竹キネマ)●最初に観た場所(ピアノ伴奏付きで):神保町シアター(14-01-08)(評価:★★★☆)
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「東京の合唱/淑女と髯」

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This page contains a single entry by wada published on 2016年1月20日 22:35.

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