【2276】 ◎ 笹島 芳雄 『最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』 (2008/04 日本経団連事業サービス) ★★★★★

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内容的に他の追随を許さない水準ながら学術書っぽさがない。デューデリ担当者には必読書か。

最新アメリカの賃金・評価制度4.JPG最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの.jpg最新アメリカの賃金・評価制度―日米比較から学ぶもの』(2008/04 日本経団連事業サービス)

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾(エントリー№2276)。長年にわたってアメリカの賃金制度の研究に携わってきた著者が、80社以上に及ぶ企業・労働組合をヒアリング調査した成果を纏めたものであり、限られた情報に基づき一面的に捉えがちだったアメリカの賃金の現状制度について、データの裏付けの下、総合的、客観的に分析しています。

 本書は同著者による『アメリカの賃金・評価システム』('01年/日本経団連出版)の続編であり、前著はアメリカの賃金制度を分かり易く紹介するとともに、アメリカの賃金制度の変容にも触れ、同時に、曲がり角にある日本の賃金制度の方向性を示唆していましたが、本書も同じような趣旨ながら、データのみならず具体的な企業事例がぐっと増えて、より実務に供する内容となっています。

 前著でも、文章が簡潔明快で読み易く、参考文献も充実していましたが、本書ではさらに図解や資料が多く挿入されていて、それらが何れも見易く纏まっているのが有難いです。内容的に他の追随を許さない水準でありながら、学術書っぽさがないのがいいです。

 日本人事労務研究所刊行の『月刊人事労務』に2001年から2006年まで断続的に連載した原稿がベースになっているとのことですが、著者は2007年にアメリカ報酬管理協会のワールドアトワークの年次カンファランスに日本からただ一人参加しており、そうした本書刊行時点での直近の調査結果や報告なども織り込まれているため、"やや中古"本(2008年刊)といっても、あまり古さは感じさせません。

 むしろ、本書を超えるレベルのものがその後に見当たらないので、これから企業規模を問わずどの企業にもグローバル化の波が押し寄せる公算が大きい「今日的」乃至「近日的」状況に際して、アメリカの賃金・評価システムがどのようなものであるかを知っておくことは無駄にはならず、その手引きとしては絶好の書と言えるのではないかと思います。アメリカ企業とのM&Aにおけるデューデリジェンス担当者などにはとっては必読書ではないかと(とりわけ米国企業では個々の賃金決定は現場のライン管理職に任されていることもあってか、デューデリで賃金制度を最初から重点的に議論し合うことは稀のように思う)。「"やや中古"本に光を」シリーズ第6弾にしてやっと5つ星です(どちらかと言うとリアルタイムで取り上げるべき本だった)。

 最近話題になっているホワイトカラー・イグゼンプションや非正規雇用の問題などについても(たまたま本書刊行時もそれぞれテーマについての時期的な議論のヤマ場があったりしたということもあるが)、アメリカを参照しつつ日本の場合はどうかという視点から解説しています。

 とりわけ、ホワイトカラー・イグゼンプションの導入に関しては、真っ向から反対はしていませんが、労働時間規制を一旦強化し、長時間労働や恒久的残業が極めて例外的な現象とされる社会構造を構築したうえで導入すべきだという慎重な見解を示しているのは、アメリカの労働社会や人事賃金諸制度に通暁している著者が言っていることだけに重いものがあります(個人的にはホワイトカラー・イグゼンプションは賛成だが、年収いくら以上とかいうことよりも、そうした社会構造のチェックとでもいうべき付帯条件が確かに必要と思う。そのチェック自体が難しいという問題があるにしても)。
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〈著者紹介〉
笹島芳雄
1967年東京都立大学卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。73年ブラウン大学大学院修了。経済企画庁、OECD出向などを経て、89年より明治学院大学教授。厚生労働省「これからの賃金制度のあり方に関する研究会」「男女間の賃金格差に関する研究会」などの座長を歴任。中央労働委員会関東地方調整委員会委員長。著書「アメリカの賃金・評価システム」(日本経団連出版)、「現代の労働問題」「賃金決定の手引」(現・明治学院大学名誉教授)

《読書MEMO》
・第1章  アメリカの賃金の全体像
・第2章  職務グレード制と基本給の決定
・第3章  職務評価の手法と実態
・第4章  労働組合員の賃金
・第5章  ボーナス制度の仕組み
・第6章  人事評価制度の実情
・第7章  ペイ・フォー・パフォーマンスの構造と特色
・第8章  日米賃金制度比較からの示唆

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