【2251】 ◎ ジョン・マッキー/ラジェンドラ・シソーディア (鈴木立哉:訳/野田 稔:解説) 『世界でいちばん大切にしたい会社―コンシャス・カンパニー』 (2014/04 翔泳社 Harvard Business School Press) ★★★★☆

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一見理想論に見えるが、内容・理論構成はしっかりしており、啓発度の高い良書。

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世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー (Harvard Business School Press)』/Wholefood Market/John Mackey, co-founder and co-CEO of Whole Foods Market

Wholefood Market logo.jpgWholefood Market 3.jpg テキサス州・オースティンを本拠とする米国の大手自然食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」の経営者が、自らが30年以上にわたって実践し成功を収めている経営スタイル「意識の高い資本主義」(コンシャス・キャピタリズム)を紹介した本です(原題:Conscious Capitalism: Liberating the Heroic Spirit of Business(2013))(米国を中心に現在300以上の拠点を持つこのスーパーは、1978年、当時25歳の大学中退者ジョン・マッキー(John Mackey)と恋人Wholefood Market 2.jpgのRene Lawson(当時21歳)が、家族から借りた資金45,000米ドルで開店した小さな自然食品から始まった。因みにこの会社は、ゲイリー・ハメルの『経営の未来』('08年/日本経済新聞出版社)で、経営イノベーションに成功した企業事例として紹介されている3社の内の筆頭にきており、続く2社は、W・L・ゴア(ゴアテックス)とグーグル)。

John Mackey2.jpg 本書の目的は、「意識の高い企業」(コンシャス・カンパニー)の誕生を促すことにあるといい、コンシャス・カンパニーとは、①主要ステークホルダー全員と同じ立場に立ち、全員の利益のために奉仕するという高い志に駆り立てられ、②自社の目的、関わる人々、そして地球に奉仕するという意識の高いリーダー(コンシャス・リーダー)を頂き、③そこで働くことが大きな喜びや達成感の源になるような活発で思いやりのある文化に根ざしている会社のことであるとのことです。こう書くと漠然とした理想論のように思われるかもしれませんが、内容および理論構成はしっかりしているように思いました。

John Mackey

 序章(第1章・第2章)でコンシャス・キャピタリズムの四つの柱を示した後、第一部から第四部で、その1つずつを丁寧に解説しています。また、その中で、ホールフーズと同様、すべてのステークホルダーに愛されながら富と幸福をつくり出しているコンシャス・カンパニーとしてイケア、コストコ、サウスウエスト航空、スターバックス、タタ、トヨタ、パタゴニアなど多くの企業例を取り上げおり、これからの企業のあるべき姿の提案として、啓発的かつ説得力のあるものとなっています。

 第一部(第3章・第4章)では、コンシャス・キャピタリズムの四つの柱のうちの第一の柱である「企業の存在目的」について、目的を持つことがなぜ重要なのかを説明し、第二部(第5~第12章)では、第二の柱「ステークホルダーの統合」について、顧客、社員、投資家、サプライヤー、コミュニティなどさまざまなステークホルダーを1つずつ取り上げて、コンシャス・カンパニーがそれぞれをどう捉えているかを考察しています。

 第三部(第13・第14章)では、第三の柱「コンシャス・リーダーシップ」について、コンシャス・リーダーの資質と育成方法を解説し、第四部(第15章~18章)では、四つ目の柱である「コンシャス・カルチャーとコンシャス・マネジメント」―意識の高い企業文化と意識の高い経営を論じています。また、コンシャス・カンパニーになる方法や、コンシャス・キャピタリズムの美と力について述べています。

 ミルトン・フリードマンの「顧客、従業員、企業の慈善活動に気を配ることは投資家の利益を増やすための手段だ」との考えに対し、「利益を上げることは企業の最も重要な使命を実現するための手段にすぎない」とのアンチテーゼを掲げるところからスタートし、「あらゆる企業が存在目的を意識して活動し、すべてのステークホルダーの利益を統合し、コンシャス・リーダーを育てて登用し、信頼と説明責任、思いやりの文化を築き上げること」がコンシャス・キャピタリズムについての自分たちの夢であるという結語で終わる本書は、資本主義社会における新たな企業のあり方が問われる今日において、非常に啓発度の高い良書であるように思いました(本書でのフリードマンの評価はボロクソと言っていい)。

 邦訳タイトルは『日本でいちばん大切にしたい会社』と無意味に張り合ってしまったのかな。個人的には、ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2―飛躍の法則』で"持ち上げられていた"「偉大な」企業のリストにアルトリア(前フィリップ・モリス)が含まれていることに"呆れた"としているのが、本書並びにホールフーズ・マーケット4.jpg店内の一例.jpgこの著者の指向を象徴しているようで興味深かったです(自然食品スーパーの経営者がタバコ製造会社の社的存在意義を認めないというのは、まあ"自然"ではあるが)。思ったより読み易い本でもあり、コンシャス・キャピタリズムとい概念に関心を持たれた人には一読をお勧めします。

ホールフーズ・マーケット/店内の一例(ニューオーリンズ)

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