【2208】 ◎ ジョン・P・コッター(黒田由貴子/有賀裕子:訳) 『第2版 リーダーシップ論―人と組織を動かす能力』 (2012/03 ダイヤモンド社) ★★★★★

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○経営思想家トップ50 ランクイン(ジジョン・P・コッター)

"リーダーシップ論のバイブル"の新版・新訳。自らの経験を咀嚼するアイデアの源泉として読む。

第2版 リーダーシップ論 帯付.jpg第2版 リーダーシップ論.jpg第2版 リーダーシップ論』 ジョン・コッター(John Kotter).jpg ジョン・コッター(John Kotter) ハーバード・ビジネススクール(松下幸之助記念リーダーシップ講座)名誉教授

 1999年に本邦で初版が刊行されて以来、リーダーシップ論のバイブルとまで言われてきた旧版に、新たな章を追加し、翻訳も一新したものです。全7章の構成の内、第1章から第6章までは、著者が1979年から97年にかけて「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に発表したものであり、第1章から第3章では、リーダーシップと変革について論じ、第4章から第6章では、今日のマネジャーの仕事が、権限の行使から依存関係への適応にどうシフトしているのか、組織図に表れるよりもはるかに複雑な人間関係にマネジャーはどう身を置いているか、そしてこの2点からどのような意味が引き出せるかを論じています。

 第1章「リーダーシップとマネジメントの違い」では、リーダーシップはマネジメントとは別物であり、また両者は補完関係にあるとしつつ、リーダーシップとマネジメントの違いを、「方向性の設定」vs.「計画と予算の策定」、「人心の統合」vs.「組織編成と人員配置」、「動機づけ」vs.「統制と問題解決」という具合に対比的に論じ、リーダーシップ重視の文化を醸成することの重要さを説いています。

 第2章「企業変革の落とし穴」では、自らが提唱する「企業変革の8段階」説に沿って、各ステップの落とし穴として、
 ①「変革は緊急課題である」ことが全体に徹底されていない、
 ②変革推進チームのリーダーシップが不十分である、
 ③ビジョンが見えない、
 ④社内コミュニケーションが絶対的に不足している、
 ⑤ビジョンの障害を放置してしまう、
 ⑥計画的な短期成果の欠如、
 ⑦早すぎる勝利宣言、
 ⑧変革推進チームのリーダーシップの不足、
を挙げています。

 第3章「変革への抵抗にどう対応するか」では、変革の難問である"抵抗"に対処する方法として、教育とコミュニケーション、参画と巻き込み、援助と促進、交渉と合意、操作と取り込み、直接的強制と間接的強制の6つを掲げ、戦略をいかに選択するは、
 ①予想される抵抗の度合いと性格、
 ②変革の主導者と抵抗者の力関係、
 ③変革の計画・実行に必要な情報と受熱を持つ人がどこにいるか、
 ④変革の成否にかかっているもの、
の4つの状況要因を明確にする必要があるとしています。

 第4章「権力と影響力」では、優秀なマネジャーは、その仕事がさまざまな人たちに依存しているとし、その上で、権力を獲得・強化する4つの方法として、
 ①感謝や恩義を感じさせる、
 ②豊富な経験や知識の持ち主として信頼される、
 ③「このマネジャーとは波長が合う」と思わせる、
 ④「このマネジャーに依存している」と自覚させる、
ことを挙げるとともに、直接的あるいは間接的に権力を行使する方法を示した上で、①権力を身につけ、行使するうえで、どのような行動ならば、周囲の目に「妥当である」と映るのかに敏感である、②周囲に好影響を及ぼすには、権力や方法を使い分ける必要があり、そのことを直感的に理解している、③4種類の方法のすべてをある程度行使し、直接的・間接的方法のすべてを用いる、などの「権力を賢く使うための7カ条」を掲げています。

 第5章「上司をマネジメントする」では、上司と部下にまつわる一般的誤解を解くとともに、上司を理解することと併せて自分自身を理解することも欠かせないとした上で、上司との関係を構築し管理する方法を説いています。

 第6章「マネジャーの日常」では、あるリーダーの1日を追うことで、優秀なリーダーの仕事のやり方を分析し、優秀なリーダーは人脈を活用して課題を成し遂げるとしています。

 著者は98年にこの6本の論文を読み返し、核となるアイデアを10の相関性のある教訓としてまとめていますが(それらは本書の序章に掲載されている)、それぞれの教訓は、マネジャーが直面する事業環境の絶えざる重要な変化を映し出したものとなっています。

 その序章で著者も述べているように、本書を読む際のポイントは、医学書のように知識を詰め込むように読むのではなく、自分のこれまでの経験を咀嚼するアイデアとインスピレーションの源として読むことにあるのでしょう。
 
 個人的には、優れたリーダーというのはインフォーマルな人的ネットワークの構築ができ、そうした依存関係の中でパワーを発揮しているという旧版から著者の見方は実に炯眼であると感じられ、更には、エンパワーメント(権限委譲)が次のリーダーを育成し、組織改革を促すと述べている点も、大いに賛同するところです。
 
【2713】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『リーダーシップの名著を読む』 (2015/05 日経文庫)

《読書MEMO》 
●目次 
訳者まえがき──リーダーシップの役割、マネジメントの役割
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部
序章 リーダーシップの未来
 リーダーシップの本質とは何か
 リーダーシップ:10の教訓
 世紀の変わり目に思うこと
第1章 リーダーシップとマネジメントの違い
 リーダーシップとマネジメントは補完関係にある
 マネジメントとリーダーシップの違い
 「方向性の設定」vs.「計画と予算の策定」
 「人心の統合」vs.「組織編成と人員配置」
 「動機づけ」vs.「統制と問題解決」
 リーダーシップ重視の文化を醸成する
 【章末】方向性の設定:アメリカン・エキスプレスのルー・ガースナー
 【章末】一体化:イーストマン・コダックのチャック・トローブリッジとボブ・クランダル
 【章末】動機づけ:プロクター・アンド・ギャンブルのリチャード・ニコローシ
第2章 企業変革の落とし穴
100を超える変革事例からの教訓
 第一ステップの落とし穴◉ 「変革は緊急課題である」ことが全社に徹底されない
 第二ステップの落とし穴◉変革推進チームのリーダーシップが不十分である
 第三ステップの落とし穴◉ビジョンが見えない
 第四ステップの落とし穴◉社内コミュニケーションが絶対的に不足している
 第五ステップの落とし穴◉ビジョンの障害を放置してしまう
 第六ステップの落とし穴◉計画的な短期的成果の欠如
 第七ステップの落とし穴◉早すぎる勝利宣言
 第八ステップの落とし穴◉変革推進チームのリーダーシップが不十分である
第3章 変革への抵抗にどう対応するか
 変革への難問
 抵抗の原因を突き止める
 抵抗に対処する
 戦略をいかに選択するか 
第4章 権力と影響力
 権力をめぐる三つの疑問
 優秀なマネジャーは依存関係を考えながら権力を使う
 権力を獲得・強化する四つの方法
 公式の権威イコール権力ではない
 直接的あるいは間接的に権力を行使する方法
 権力を賢く使うための七カ条
第5章 上司をマネジメントする
 「ボス・マネジメント」はなおざりにされている
 上司と部下の関係にまつわる誤解
 上司を理解する
 自分自身を理解する
 上司との関係を構築し管理する方法
第6章 マネジャーの日常
 あるリーダーの一日
 優秀なリーダーの仕事のやり方
 人脈を活用して課題を成し遂げる
 立場が行動を規定する
 一見非効率だが実は効率的な行動
 リーダーのために会社は何をすべきか
 【章末】調査の概要と結果
第7章 自分のアイデアを支持させる技術
 優れたアイデアはなぜ日の目を見ないのか
 反対者や批判者を巻き込むテクニック
 批判にはこう対処する
 偉大なリーダーたちは物語を語る
第8章 【特別インタビュー】 迷走するアメリカ企業内大学
 リーダーシップ論のグールーの嘆き
 ベスト・プラクティスはGEの企業内大学
 マネジメント教育とリーダーシップ教育は別物
 MBAプログラムはリーダーを育成しない
 経営者と人事部門のミッシング・リンク

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