【1992】 △ ジェフリー・ディーヴァー (土屋 晃:訳) 『追撃の森 (2012/06 文春文庫) ★★☆

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同じ所をぐるぐる回っている感じで深化しない。スペシャリスト不在だと面白くない作家か。

追撃の森.jpg 『追撃の森 (文春文庫)』 『追撃の森』2.JPG

the Bodies Left Behind.jpg 断片的な通報を受けたウィスコンシン州ケネシャ郡の保安官は、女性保安官補ブリン・マッケンジーを、現場である周囲を深い森に囲まれた湖畔の別荘へ派遣、彼女はそこで別荘の所有者である夫婦が殺されているのを発見するとともに殺し屋の銃撃に遭い、現場で出会った銃撃を逃れた女性を連れて深夜の森を走る。無線も無く、援軍も望めない中、女2人vs.殺し屋2人の戦いが始まる―。

 2008年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:The Bodies Left Behind)、"リンカーン・ライム"シリーズのようなシリーズ作品ではなく、所謂スタンドアローン作品です。

 『ボーン・コレクター』('97年)以降、ハリウッド映画のヒーロー的な主人公が多かった彼の作品にしては新基軸と言うか、むしろ、心理描写、犯人との直接的駆け引き重視という点で、初期作品『静寂の叫び』('95年)に原点回帰した印象です。

 全体の8割が森の中での追走劇に割かれている点では、ほぼ同じ割合が食肉加工工場に立て籠もった犯人と交渉人の遣り取りに割かれている『静寂の叫び』と似ているし、その後のどんでん返しのパターンも良く似ています。

 但し、主人公のブリンは単なる女性保安官補に過ぎず、『静寂の叫び』のFBI危機管理チーム交渉人アーサー・ポターや、『ボーン・コレクター』('97年)の犯罪学者リンカーン・ライム、『悪魔の涙』('99年)の文書検査士パーカー・キンケイド、『スリーピング・ドール』('07年)の「キネシクス」分析の天才キャサリン・ダンスといったスペシャリストは出てきません。

 そうした意味ではディーヴァーの"新境地"なのかもしれないけれど、森の中での追走劇が同じ所をぐるぐる廻っている感じで、ストーリー的に深化していかず平板な印象を受け、結果的に、単刊の割には冗長に感じられました。

 『静寂の叫び』にも「冗長」との批評はありましたが、交渉人のテクニックなどが披瀝されていて、その分、心理描写も深いものになっていたように思われ、それに比べるとこちらは物足りない感じ。やはりこの人の作品は、スペシャリストが出てこないと面白くないのか。

 例の女性の正体が途中でバレないのも不自然。殺し屋の方は彼女の正体を知っているのに何故そのことを利用しなかったのか、やや不思議に思われました。

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