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オーソッドックスで現実的。著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てた。
『6ヶ月間で人事制度改革が実現できるデフレ時代の「人事評価・賃金制度」の作り方』(2012/08 中央経済社)
「実質65歳定年時代」を念頭に置いた、比較的オーソッドックスで、かつ中小企業でも導入可能な現実的な「人事評価・賃金制度」の作り方解説書になっているように思いました。
1ヵ月目が「現状分析と人事方針を決定する」、2ヵ月目が「職種別の等級制度と人事評価制度を作る」、3ヵ月目が「デフレ対応型・給与制度を作る」、4ヵ月目が「収益強化のための業績連動賞与を作る」、5ヵ月が「退職金と周辺制度改定で人件費を逓減する」、6ヵ月目が「効果的に社員に説明し、新制度を導入する」となっていて、要するに、等級制度・評価制度・給与制度・賞与制度・退職金制度の全てにわたるトータル人事制度の設計であるわけで、「6ヵ月」というのは"最短・最速"期間ということになるかと思います。
等級制度の作り方において、業種別に解説されているほか、職種別に等級基準を作ることを比較的詳しく解説していて、一方で、職能基準にするか職務基準にするかについては会社ごとに事情が異なるとしていていますが、この辺りはコンサルティングにおける著者らの経験が反映されているのだと思います。
賃金制度の解説のところで号俸表が出てきて、職能給制度で号俸表を用いると、範囲給のレンジ幅が大きくなったり、上限額に到達してしまう者が多発したりしないかと、その辺りが気になるところですが、これについては、評価点をダイレクトに反映させた洗い替え方式の給与事例を示しています。
これこそまさに「デフレ」対応なのでしょう。しかし、それだとあまりにドラスティックになってしまうので、現実対応を念頭に様々な緩和パターンも示していますが(最終的には所謂「多段階洗い替え」方式になるのか)、号俸表を用いることによってやや複雑になってしまっている印象も受けました。
実務書なので、テクニカルな部分はある程度突っ込まざるを得ないというのはありますが、全体を通しては、それぞれコンパクトに纏まっていて、概ね分かり易く書かれているように思いました。
更には、例えば「退職金と周辺制度」のところでは、定年再雇用後の賃金制度の見直し例や、契約社員・パート社員の人事制度事例も紹介するなど、至れり尽せりという感じです。
「評価連動型の役職手当」などといった例も紹介されていますが、全体を通してみた場合、目新しい提案がそうあるというわけでもないものの基本は押さえている感じで、何よりも、事例等を通して著者らのノウハウをふんだんに開示している姿勢には好感を持てました(オーソドックスではあるが、ここまで詳しく解説されているものは少ないかも)。
制度設計のことを学びたい人にも参考になるかと思いますが、200ページで2,520円(税込)というのは「会社買い」の価格設定ではないでしょうか。著者らの、自らのノウハウをこの1冊に凝縮させたという思いが価格に反映されているのか(それなりに密度は濃いけれど)、それでも本書と同じソフトカバー版の類書に比べると価格がやや高い印象も受けました。