【1832】 ◎ アリス・ロバーツ (馬場悠男:日本語訳監修) 『人類の進化 大図鑑 (2012/09 河出書房新社) ★★★★☆

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古人類の「容貌」模型のリアルさは圧巻。最新知見による解説が人類史へのロマンを駆り立てる。

人類の進化 大図鑑0 - コピー.jpg人類の進化 大図鑑.jpg人類の進化 大図鑑』['12年] 
(30.2 x 25.6 x 2 cm)

 本書は、まず「霊長類」の章で霊長類の現生近縁種を紹介するところから始まり、次の「人類」の章で、人類を系統的に遡って我々の祖先を紹介(この部分が全体の3分の2)、続く「出アフリカ」の章では、初期人類や現生人類がアフリカを出て世界に広がっていった様子を、最終章「狩猟者から農民へ」では、氷河時代の終わりにかけて変化していく人類の生活と、最後には世界各地で興った古代文明の足跡を辿っています。

人類の進化 大図鑑1.jpg 人類進化のストーリーを一般読者が身近に感じられるようにとの狙いから写真・イラスト・図説が充実していて、本書の編集長で英国の科学ジャーナリストであるアリス・メイ・ロバーツ(Alice Roberts)は、医学、解剖学、骨考古学、人類学に精通したサイエンス・コミュニケーターで、BBCの科学番組などにも出演しているとのこと、とりわけ、「人類」の章に出てくる、古生物を専門とする模型作家オランダのアドリー&アルフォンス・ケネス兄弟による、古代人類13体の容貌の精緻な復元モデルは、今にも動き出しそうなほどのリアリティがあります。

 あまりにリアルであるため、頭髪や体毛などに関して本当にここまで解っているのかなあという疑念はありますが、解剖学や遺伝学の最新の研究成果に考古学などの調査データが加味されていて、監修者の馬場悠男氏(現国立科学博物館名誉研究員)もお墨付きを与えているようです。何よりも、これまでの人類学図鑑にはない「見せる力」があります。

 サヘラントロプス・チャデンシスは、現代考古学において最古のヒトとされていますが、本書で見るサヘラントロプスの容貌は、ほとんどどサルみたいに見えます。実際、サヘラントロプスは、ヒトとチンパンジーの最後の共通祖先と同じ時期に生きていましが、人類の系統樹の中の位置づけについてはまだ不明な点が多いそうです。
 サヘラントロプスと併せて、最初に二足歩行した人類として有力視されているオロリン・トゥゲネンシスや、後の人類の祖先である可能性があるアルディピテクス・ガバダ、1992年に発見された「ラミダス猿人」として知られるアルディピテクス・ラミダス、その他、初期のアウストラロピテクス系の人類の化石や最近の研究知見が紹介されています。

人類の進化 大図鑑 アウストラロピテクス.jpg 続いて登場のアウストラロピテクス・アファレンシスは、現生人類(ホモ・サピエンス)が属するヒト属(ホモ属)の祖先ではないかと考えられていますが、これも同じくサルのように見えると言っていいのでは(特に横顔)。しかしながら、生態図(イメージイラスト)をアルディピテクス・ラミダスのものと比べると、より完全な二足歩行になっていて"人間"っぽい感じ。

アウストラロピテクス・アファレンシス

 続くアイストラロピテクス・アフリカヌス(最初に初期人類として認められ、人類の進化の舞台がアフリカであったことを決定づけた)の容貌も、まだサルみたい...。1990年に発見されたアイストラロピテクス・ガルヒや2008年に発見されたアイストラロピテクス・セディバのなどの頭骨写真も紹介されています。

 次にホモ・ハリバスの登場で、やっと人間らしい容貌になったかなあと。人類で最初に出アフリカを果たした可能性があるホモ・ジョルジグス、現生人類と同じくらいの身長になり、体つきも似てきたホモ・エルガスター、3万年ほど前までアジアに住んでいたと考えられるホモ・エレクトス、スペインなど西ヨーロッパで化石が見つかるホモ・アンテセッソール、ヨーロッパのネアンデルタール人とアフリカの現生人類の最後の共通祖先だったと考えられるホモ・ハイデルベルゲンシス、2003年に発見されたホモ・フロレシエンシス―と、この辺りにくるとどんどん現生人類に近くなってきます。

『人類の進化 大図鑑』.jpg そして登場するのが「ネアンデルタール人」ことホモ・ネアンデルタレンシスで、最も新しい遺跡はジブラルタルで見つかっているが、どうして絶滅したのかはまだ謎であるとのこと。ある本には、ネアンデルタール人が床屋にいって髪を整え、スーツを着てニューヨークの街中を歩けば、誰もそれがネアンデルタール人であることに気が付かないであろうと書いてあった記憶がありますが、復元された容貌を見ると確かに。そして最後に、ホモ・サピエンスの登場―人類系統樹の中で唯一生き残った枝であり、最初は黒人しかいなかったわけだ。

[表紙中]サヘラントロプス・チャデンシス/[表紙右]ホモ・ネアンデルタレンシス

 この章で感じたのは、これまで図鑑などで古代人類の頭骨の化石や模型ばかり見てきて、具体的な容貌については勝手にそこに「人間の皮」を被せたイメージを抱いていたのですが、前半の方はかなりサルに近いなあということ。考えてみれば、いきなり現生人類が登場したわけではないので当然と言えば当然ですが、サルからヒトへの進化の中での「容貌」の変化にもグラデュエーションがあったということに改めて思い当りました。

『人類の進化 大図鑑』3.jpg 「出アフリカ」の章では、最後にオセアニアに至る人類移動(ロコモーション)全体を扱っていますが、この章も図説が多く、写真も豊富で分かり良いです(初期人類の出アフリカは200万年前、ホモ・サピエンスの出アフリカは8万年前から5万年前としている)。

 そして最後の「狩猟者から農民へ」の章では、後氷期から、狩猟生活から農耕生活への変遷、農業・金属加工・交易などの進歩・発展、国家や文明の興隆など、最後は中国の商王朝やメソアメリカのオルメカ、アンデスのチャビン文化まで紹介して終わっています。

 模型により復元された人類の「容貌」の変遷は本書の「目玉」であるかと思いますが、全体を通して、形態学的観点からだけでなく、各古代人類の生態・生活・文化などに関しても、最新の知見に基づく詳細な解説がなされていて、そのことが一層人類史へのロマンを駆り立てる本であり、やや値段は張るけれども、できれば手元に置いておきたい一冊です。

《読書MEMO》
●目次
●過去を知る〈UNDERSTANDING OUR PAST〉(マイケル・ベントン)
 過去へ/地質記録/化石とは何か/祖先を探す/考古科学/骨片をつなぎ合わせる
 /骨に生命を吹き込む/復元/行動を読み解く
●霊長類類〈PRIMATES〉(コリン・グローヴズ)
 進化/分類/最古の霊長類/新世界ザル/初期類人猿と/旧世界ザル/現生類人猿/類人猿とヒト
●人類〈HOMININS〉(ケイト・ロブソン・ブラウン)
 人類の進化/人類の系統樹
 /サヘラントロプス・チャデンシス
 /オロリン・トゥゲネンシス
 /アルディピテクス・カダバ
 /アルディピテクス・ラミダス
 /アウストラロピテクス・アナメンシス
 /アウストラロピテクス・バールエルガザリ、ケニアントロプス・プラティオプス
 /アウストラロピテクス・アファレンシス
 /アウストラロピテクス・アフリカヌス
 /アウストラロピテクス・ガルヒ、パラントロプス・エチオピクス
 /パラントロプス・ロブストス、アウストラロピテクス・セディバ
 /パラントロプス・ボイセイ
 /ホモ・ハビリス
 /ホモ・ジョルジクス
 /ホモ・エルガスター
 /ホモ・エレクトス/ホモ・アンテセッソール
 /ホモ・ハイデルベルゲンシス
 /ホモ・フロレシエンシス
 /ホモ・ネアンデルタレンシス
 /ホモ・サピエンス
 /頭部の比較
●出アフリカ〈OUT OF AFRICA〉(アリス・ロバーツ)
 人類の移動経路/遺伝学が解き明かす移動経路/初期人類の移動経路
 /最後の古代人/新しい人類種の出現/東方への沿岸移動/ヨーロッパへの移住
 /ヨーロッパのネアンデルタール人と/現生人類/北アジアと東アジア/新世界/オセアニア
●狩猟者から農民へ〈FROM HUNTERS TO FARMERS〉(ジェーン・マッキントッシュ)
 後氷期/狩猟採集民/岩面美術/狩猟採集から食糧生産へ/西アジアと南アジアの農民
 /ギョベクリ・テペ/アフリカの農民/東アジアの農民/ヨーロッパの農民/南北アメリカ大陸の農民
 /動物の有効利用/工芸の発達/金属加工/交易/宗教/ニューグレンジ/最古の国家群
 /メソポタミアとインダス/ウルのスタンダード/エジプト王朝時代/中国の商王朝/アメリカの諸文明
●用語解説/索引/出典

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