「●動物学・古生物学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2326】 武田 正倫/西田 賢司 『世界の美しい透明な生き物』
動物(生物)を体の機能や生態行動ごとにテーマで括って解説。解説も写真も楽しめる。
『動物生態大図鑑』['11年]
(30.4 x 25.6 x 2.2 cm)
動物(生物)を通常の分類ごとに分けるのではなく、体の機能や生態行動ごとにテーマで括って分けていて、例えば「血を吸って生きる」というテーマでコウモリと蚊やダニを同じページで紹介したり、「うろこ」というテーマで魚と蛇を紹介している独特な切り口であり、写真も豊富で美しく、見ているだけでも楽しめますが、読んでいてもなかなか面白いと思いました。
例えば「足で歩く」のところでは、ヤスデ(750本の足は動物の中で最も多い)とチーターが一緒に登場したり、「極限の環境に生きる」のところでは、冬眠するヤマネと、400℃に達する海底熱水噴火口に生息するポンペイワームや10年以上も冬眠が可能な微生物のクマムシが一緒に登場するなど、哺乳類や魚類などの脊椎動物から、無脊椎動物や昆虫、更には微生物まで、1つのテーマや切り口の中では同等に扱っている(写真の大きさも)のが斬新です。
「血を吸って生きる」のところに出てくるマダニは、大人の雌が食事をするのは一生に一度だけで、その1回を終えるのに1週間以上かかり、体重は50倍になってぶどうの粒ぐらいになり、そのまま地面に落ちて卵を産むそうな(何だかウソみたいな話だが、吸血後の腹が巨大化したマダニの写真が出ている)。
「繁殖」のところでは、雌雄同体でありながらパートナーに精子を与え合うマダラコウラナメクジや、ことが終わったあとに交尾相手の雄を頭から食べ始めるカマキリの雌の写真があります(雄は頭が無くなっても雌の体内に精子を送り続ける!)。
最終章で、一応分類学上の括りで、無脊椎動物、軟体動物、節足動物、昆虫、脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)のそれぞれの中での分類や代表的な生き物を紹介していて、生物学の"復習"になるとともに、改めて生物の多様性を認識させられました。
無脊椎動物の一種「扁形動物」で60センチにもなるというウズムシなんて知らなかったし、サナダムシの頭部の写真は怖いなあ。魚類の一種「無顎類」であるヌタウナギって、心臓が4つあるのか―等々、トリビアな記述が満載で、こうした細部の解説も楽しめ、それらにもちゃんと写真が付されています。
勿論、各章の冒頭や章中にある見開きワイドのダイナミックな生物写真は迫力、美しさ共に圧巻で、章中の写真の一部にピントのずれがあったりしたものもありましたが(大判でしかもコラージュしているため、却ってそれが目につく)、但し、この場合、解像度よりもむしろ生態写真としての価値の方を優先させて掲載しているのでしょう。極小生物ほどよく撮れているように思いましたが、まあ、アリ1匹を大判見開きで見せるなんて普通の図鑑ではやらないことだから、それだけでインパクトがあるのかも。
解説文中においても「爬虫類」「哺乳類」を「は虫類」「ほ乳類」とせず全て漢字表記にしているのは、この方が読み易くていいと思いました(「雄・雌」も漢字。「蚊」はやっぱり「カ」になってしまうのだが、これは表記の統一上やむを得ないか)。