【1829】 ◎ 河合 信和 『ヒトの進化 七〇〇万年史 (2010/12 ちくま新書) ★★★★☆

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2010年までの先史人類学史の最先端。但し、まだ全体の1割ぐらいしか分かっていない?

ヒトの進化 七00万年史.jpg                       人類進化99の謎.jpg  人類進化の700万年.jpg
ヒトの進化 七00万年史 (ちくま新書)』['10年] 河合 信和 『人類進化99の謎 (文春新書)』 ['09年] 三井 誠 『人類進化の700万年―書き換えられる「ヒトの起源」 (講談社現代新書)』['05年]

 同じようなタイトルでの本で、人類学者の三井誠氏の『人類進化の700万年』('05年/講談社現代新書)を読んだ後に、科学ジャーナリストである著者の前著『人類進化99の謎』('09年/文春新書)を読んで、そちらはQ&A形式の入門書で、分かり易かったけれども、まあ、「入門の入門」という感じだったかなと。それで、今度も易しいかなと思って本書を読んだら、三井誠氏の『人類進化の700万年』よりも専門的で、結構読むのが大変でしたが面白かったです。

ラミダス猿人の化石人骨.jpg 冒頭で、700万年の人類の進化史には、①サヘラントロプスなど初期ヒト属の誕生(700万年前)、②初期型ホモ属(アフリカ型ホモ・エレクトスなど)の分岐(250万年前)、③ホモ・サピエンスの出現(20万年前)の3つの画期があったとし、本書前半部分は、700万年前から数十万年前までのホミニン(ヒト属)の発見史となっており、後半部分はネアンデルタール人やホモ・サピエンス(現生人類)を主に扱っており、三井誠氏の『人類進化の700万年』と比べると、"始まり部分"と"直近部分"が詳しいという印象。

ラミダス猿人(通称アルディ)の化石人骨(「Science」誌2009年10月2日)

 第1章(700万~440万年前)では、ラミダス(440万年前)と最古の三種(サヘラントロプス、ガタッパ、オロリン)について解説されており、「アルディ」と名付けられたラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)のは発見には、日本人人類学者の諏訪元氏も関わっていたのだなあと。チンパンジーやゴリラとの最大の違いは、一雄一雌の夫婦生活を送っていたと考えられることらしいです(ホミニンであるということを定義する条件は「直立二足歩行」であるが、二足歩行と一夫一妻制の関係については、三井氏の著書に面白い考察がある)。

アファール猿人.jpg 第2章(350万~290万年前)は、アファール猿人(350万年前)についてで、アウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の脳の大きさは現生人類の3分の1程度ですが、既に人類固有の成長遅滞(脳がまだ小さいうちに産み、ゆっくりと時間をかけて育てる)の形跡が見られるそうです。

アファール猿人

 第3章、第4章では、東アフリカでの人類進化(420万~150万年前)、南アフリカでの人類進化(350万~100万年前)、の研究の展開を解説し。このあたりは、人類学者たちの発見競争のドラマにもなっています。

 第5章では、ホモ属の登場と出アフリカ(200万~20万年前)を扱っており、 人類進化の第2の画期が、約250万年前にホミニンの中からホモ属が分岐したことになるわけですが、初期ホモ属の起源と考えられるのはエチオピアで発見されたアウストラロピテクス・ガルヒであり、250万年前には、「オルドワン文化」と呼ばれる石器文化を形成していた形跡があり、200万年前にアフリカ型ホモ・エレクトスに進化し、その一部が「出アフリカ」を果たしたと考えられるとのこと、古生物学者は、石器によって肉食が容易になったことが、脳の大型化に繋がったとみているとのことです。

 第6章(40万~28万年前)では、現生人類(ホモ・サピエンス)の出現(20万年前)とネアンデルタール人の絶滅を扱い、ホモ・サピエンスの登場もアフリカでのことであり、彼らは更なる脳の大型化によって先の尖った繊細な石器を作り、長距離交易をするようになったが、それには相当の時間がかかったとみるのが妥当で、ホモ・サピエンスの「出アフリカ」は6万年前と考えられ、既にヨーロッパに居たネアンデルタール人と約1万数千年共存していたが、ネアンデルタール人の方が、文化的に進歩したホモ・サピエンスに圧倒されて滅びたのであろうと。

 このあたり来ると、形状的な進化の話だけではなく、象徴や言語、コミュニケーションといった人間的な進化についての近年の研究による知見も織り込まれてきます。

ホモ・フロレシエンシス.jpg こうして要約すると、人類進化の歴史がスムーズに繋がっているように見えますが、実際には詳細において不明な点は多々あり、また、最終第7章(100万~1.7万年前の)の「最近まで生き残っていた二種の人類」の中で紹介されているように、2003年にインドネシアの離島フローレス島で化石が発見された1.7万年前のホモ属と考えられるホモ・フロレシエンシスのように、その発見によってそれまでの人類学説をひっくり返してしまうような出来事も起きています(身長が1メートルそこそこしかない低身長だった。本書では、「ホモ・フロレシエンシス=アフリカ型ホモ・エレクトスの子孫」説を支持)。

サイエンスZERO 「衝撃の発見 身長1m 小型人類の謎」 (NHK教育/2009年10月17日放送)
   
 本書によれば、先史人類学史の解明状況は、ジグソーパズルで言えば300ピースのうち手元にあるのは30ピースぐらいであろうと。本書が刊行された'10年も"発見ラッシュ"の年だったようで、また新たな発見で、「(現在のところ)700万年」の人類学の歴史が、今後も大きく書き換えられる可能性があることを示唆しています。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年1月19日 06:33.

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