【1768】 ◎ 斎藤 正彦 『親の「ぼけ」に気づいたら (2005/01 文春新書) ★★★★☆

「●医療健康・闘病記」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【767】 小澤 勲 『認知症とは何か
「●文春新書」の インデックッスへ

入門書として優れ、患者とそれを見守る家族に対する著者の暖かい眼差しも感じられる本。

『親の「ぼけ」に気づいたら』.JPG親の「ぼけ」に気づいたら 文春新書.jpg 『親の「ぼけ」に気づいたら (文春新書)

 親が「痴呆性疾患」に罹ったらどうすればよいかということを、臨床医である著者の経験から幾つかの事例を複合させて構成した一人の患者のモデルケースと、その介護にあたった家族の架空の物語を軸に分かり易く解説して、その間、「ぼけ」とはどのようなものかを解説するとともに、その他の様々な症例とそれに対する家族の対応などもケーススタディとして織り込んでいます(本書刊行の前年に厚労省は「認知症」という"新語"の使用を決めているが、本書ではまだ一般の読者に馴染みがないことから「痴呆」という言葉を用いている)。

 メインとなっているモデルケースは、75歳の会社経営者で、家族は、妻と2人の息子に1人の娘―話は、本人が好きだったゴルフをやらなくなったことから始まり、実はそれはスコアを正確に記録することができなくなったためなのですが、当初は、家族それぞれに主人公の病状や介護の在り方について意見が違ったりもし、また、初期の段階で一番たいへんなのは、本人を医者に診せることだったりするのだなあと。

 このモデルケースの場合、ゆっくり進行するアルツハイマー症で、その初期から終末までの10年間を全14話にわたって追っていますが、間に挟まれているケーススタディ(全17エピソード)には、脳血管性疾患など様々な症例が取り上げられていて、ただ症例として取り上げるだけではなく、メインストーリーと同じく、厳しい現実に直面した家族の苦労と具体的な対処、家族の介護に対する考え方、ひいては家族並びに本人の人生観にまで踏み込んで書かれていて、それらもまた一つ一つが物語となっており、介護入門書としても読み物としても奥深いものとなっています。

 痴呆性疾患の種類や様態について詳しく解説されているほか(「早期の診断」の重要性を感じた)、介護制度の現状や介護施設の選び方、成年後見人制度等の情報も網羅されています。

 患者とそれを見守る家族に対する著者の暖かい眼差しが感じられる本でもあり、最後に、病気が進行して栄養摂取障害となった際に経管栄養(胃瘻など)を行うかどうかという問題について、メインとなっているモデルケースは家族の意向を汲んでそれを行っていますが、著者自身の考えとしてはやるべきではないとしていて、ここまでの著者の語り口からみて説得力がありました。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2012年7月 6日 23:21.

【1767】 ◎ 野村 哲也 『カラー版 パタゴニアを行く―世界でもっとも美しい大地』 (2011/01 中公新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【1769】 ○ 川畑 信也 『知っておきたい認知症の基本』 (2007/04 集英社新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1