【1707】 ◎ 佐藤 栄佐久 『福島原発の真実 (2011/06 平凡社新書) ★★★★★

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プルサーマル導入を巡る国・東京電力との壮絶な「闘い」を前知事がつぶさに綴る。

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福島原発の真実 (平凡社新書)』   佐藤栄佐久(前福島県知事)外国人記者クラブ会見(4月18日)

 著者は前福島県知事で、知事在任中は東京一極集中に異議を唱え、原発問題、道州制などに関して政府の方針と真っ向から対立、「闘う知事」として県民の圧倒的支持を得ますが、第5期18年目の'06年9月、県発注のダム工事をめぐる汚職事件で追及を受けて知事を辞職、その後逮捕され、第一審で有罪判決を受けます。

 しかし、この逮捕劇が、反原発であった著者を知事の座から引き摺り降ろすための"でっち上げ"事件であったことの経緯は、前著『知事抹殺―つくられた福島県汚職事件』('09年/平凡社)に詳しく書かれています('09年10月に、控訴審で「収賄額ゼロ」認定を受けるも、有罪判決は覆らず)。

 東日本大震災による福島第一原発事故を受けて出版された本書では、冒頭に郡山市にて被災した著者自身の体験が描かれていますが、本編の内容の大部分は、福島第一原発におけるプルサーマル計画の実施を巡って、県にプルサーマル受入れを迫る国及び東京電力と著者との間で繰り広げられた壮絶な「闘いの記録」となっています。

 当初は原発に対して比較的中立的な立場だった著者ですが、90年に入って原発誘致の在り方に明確に違和感を覚えるようになり、やがて福島第一原発のプルサーマル計画の実施に際して、国及び東京電力の次々と前言を翻し、平気でウソをつき、畳み掛けるように誘致を迫る県民不在の姿勢に、心底怒りを覚えるようになります。

 しかしながら本書ではそうした感情的なトーンは極力抑えられ、政府(内閣府・経産省・資源エネルギー庁)や東京電力、原子力委員会・原子力安全委員会や原子力安全・保安院、更には地方自治体の、それぞれの当事者・関係者の誰がいつどのような発言をしたかを淡々と綴ったドキュメントの体裁をとっていて(おそらくバックアップしている人がいると思われるが、その時々の詳細且つ精緻な記録となっている)、それが却って迫力のあるものとなっており、同時に、国や東京電力が原子力政策を強引に進めるために地方自治体を籠絡する"やり口"がつぶさに見てとれます。

 資源エネルギー庁が地方交付金をMOX燃料はウラン燃料の2倍に、プルサーマル発電はウラン燃料発電の3倍にするというのは、まさに地方自治体を交付金で"麻薬漬け"にしてまでもプルサーマルを導入しようとする国の意図の表れであり(真っ先に陥落したのが佐賀県、その後も佐賀県は、政府・九電のいいなりのまま、やらせ公開討論会などを開いたりしたわけだ)、福島県知事であった著者は、こうした国の"やり口"に対して反旗を翻しますが、そこに待ち受けていたのがでっち上げられた汚職事件であり、後任の佐藤雄平知事は易々とプルサーマル受入れに同意してしまう―という、ドキュメントでありながらも小説を読むように一気に読めてしまう内容でしたが、小説ではなく現実の話だから、やりきれない気持ちになります。

 こうして見ると、「国」と言っても、内閣府や経産省を動かしているのは大臣ではなく経産官僚であり、この経産官僚というのが"顔が見えない"だけに歯痒いのですが、例えば、原子力安全・保安院も「資源エネルギー庁の特別の機関」とはされているけれども、結局は経産官僚の出先機関のようなものだったのかと(資源エネルギー庁と違って殆ど文系だし)。

 東電が福島第一・第二原発の点検結果を改竄し、それに対する(東海村JOC臨界事故を「教訓」に導入された内部告発制度に基づく)内部告発が'00年にあったそうですが、告発を受けた当時の通産省も、'01年に発足してそれを引き継いだ保安院も立ち入り調査を行わず、逆に東電に告発者氏名と告発内容資料を渡して2年間放置していたというのは、まさに犯罪行為ではないでしょうか(保安院の解体は当然にしても、もっと責任を追及されて然るべし)。

 あとがきには、震災による福島第一原発事故の前年('10年)6月にも、福島第一原発事故2号機で、冷却水を循環させるポンプが止まって電源喪失し、原子炉の水位が2メートルも下がるという事故があったのに、その教訓が何ら生かされなかったとありますが、これだけ事故隠し・データ改竄を続ける中で、そうした危機感が完全に麻痺していたとも言えるし、著者が言うように、その根底には、「原子力は絶対に必要である。だから、原子力発電は絶対に安全だということにしないといけない」という考え方があったのでしょう。

 今回の福島第一原発事故はまさに人災であり、その背景には官僚が全てを支配する日本の統治機構の問題があるとの思いを、本書を読んで更に強く感じました。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年3月 4日 00:42.

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