【1684】 △ 下津浦 正則 『「育成型人事制度」のすすめ―グローバル新時代の人材戦略』 (2011/06 東洋経済新報社) ★★★

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中核は自社メソッドの紹介だが、周辺部分において読みどころがあった。自社メソッドについては隔靴掻痒の感。

「育成型人事制度」のすすめ.jpg 『育成型人事制度のすすめ』(2011/06 東洋経済新報社)

 本書は、全4章から成り、第1章で日本の人事制度の変遷をたどり、第2章で、今後あるべき人事制度の骨格としての「育成型人事制度」について、その必要性と枠組みを解説、さらに、第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント」について、その理論や歴史、方法論を解説、最後の第4章では、人事制度の運用例として2つの事例を紹介しています。

 日本の人事制度の変遷を追った第1章は、その源流から戦前まで、さらに戦後の混乱期、高度成長期を経て70年代の低成長期、80年代のバブル期、バブル崩壊から成果主義の進展、アンチ成果主義の展開に至る流れをたどるとともに、職務等級制度の復活、定期昇給の廃止、目標管理と報酬のリンク、コンピテンシーの導入といったトピックも併せて解説しており、簡潔かつよく整理されていて、人事パーソンの"一般常識"として読めるように思えました。

 そうした日本の人事制度の歴史を通して、第2章では、「成果主義人事制度」が曲がり角に来ている現在、企業がグローバル新時代に対応していくために人事面で目指すべきゴールは「人材の育成」であるとし、その必要性の根拠を、経済合理性、労働人口の減少、モチベーションの向上、日本的徒弟制度という4つの視点から述べるとともに(ここまでは、きっちりした内容)、「育成型人事制度」の枠組みを、組織診断、経験のDB化、個別人事制度の構築、制度の運用、効果の検証という5つのステップで示しています(この辺りからやや"商売"っぽい感じが...)。

 そして第3章で、「育成型人事制度」の柱となる組織診断ツールとしての「ヒューマン・アセスメント(HA)」とはどのようなプログラムなのか、その理論的背景や方法論が解説されていますが、本書で言うところの「ヒューマン・アセスメント(HA)」とは、米国のDDI社が開発し、日本では、著者の所属するMSC社が企業や官公庁にサービス提供を行っているメッソドを指しています(要するにこの部分は"自社メソッド"の紹介であるということか)。

 「ヒューマン・アセスメント(HA)」の実際について、例えば演習課題がどのように行われるかということが解説されており、アセスメント実施中の各人の演習行動を観察・記録し評価するアセッサーは、自社の人材を社内アセッサーとすることも可能であるとしていますが、アセスメントの実際についての解説がそれほど具体的に書かれていないため、本書を読んだだけでいきなりというのはまず無理なように思われ、このメソッドを用いるのであれば、やはり最初は著者のそのMSC社に指導を仰ぐことになるのではないかと思われました。

 むしろ第4章で、育成型人事制度を成果に結びつけるための施策として挙げている2つの事例(「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」と「管理職養成を図る多面評価の効果的活用」)の方がより具体的に書かれていて分かり易く、個人的には、「目標管理におけるブレイクダウンミーティング」(上司と部下全員が一堂に会して組織目標達成のための方策をディベート形式で検討し、各人の目標を決めるというスタイル)に関心を持ちました。

 本書の中核部分は「ヒューマン・アセスメント(HA)」(自社メソッド)の紹介なのでしょう。それ以外の周辺部分での分かりやすさ(実際に示唆を得られる部分もあった)とは逆に、その中核部分については"隔靴掻痒"感があり、自社メソッドについて全部を本には書いてしまわないという、こうした類の本のパターンを踏襲しているように思えました。


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