【1619】 ◎ 守島 基博 『人材の複雑方程式 (2010/05 日経プレミアシリーズ) ★★★★☆

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日本企業の強みを生かしつつ、時代の変化に対応するにはどうすればよいかということの処方箋。

人材の複雑方程式  日経プレミアム.jpg 『人材の複雑方程式(日経プレミアシリーズ)』(2010/05)

 '06年から'09年にかけてビジネス誌「プレジデント」に連載されたコラムがベースになっている本で、バブル崩壊後、2000年代初期(当連載の開始時期以前)にかけて導入された成果主義的な評価・処遇制度や人材ビジネスに関する規制緩和が、その後の企業の人材育成に複雑な変化をもたらしたことを、冒頭で指摘しています。

 具体的にどのような変化が起きたかというと、それは、人という資源の重要性、人材育成機能や働きがいの提供、働く人の経営に対する信頼など、人にまつわる基本要素が脆弱化したことであるとしていて、本書は全体を通して、そした傾向に警鐘を鳴らすとともに、そうした状況に対する多くの処方箋を示唆するものとなっています。

 前半部分では、日本企業の職場の特性とリーダーシップの関係について論じるとともに、なぜ日本企業においてリーダーが育たないのか、どのようなリーダー(フォロワーシップを含む)が今後は求められるのかを考察しています。

 中盤部分では、終身雇用への心情的回帰現象を踏まえつつ、会社と従業員の信頼関係の再構築を図るには何が鍵になるかを示し、また、その中での人的ネットワークのもつ経営上の価値というものを強調しています。

 そして、後半部分では、今後、人々の働き方の改革が始まるであろうことを前提に、企業はどのようにすれば、働きやすさや働きがいを従業員に提供することができるかを考察しています。

 本書で述べられている「リーダーシップの状況対応理論」などは、理論としては必ずしも目新しいものではありませんが、ベストリーダー像を固定観念で捉え、現場リーダーに過剰な期待を寄せてしまうことの危うさを説く論旨のなかで、「どこでもリーダー」という分かりやすい言葉で提唱されると、すとんと腑に落ちるものがありました。

 各論においても、個人情報保護、コンプライアンス、ワークライフバランスといった概念に対する盲従的な礼賛の危うさを、鋭く批判してしており、その箇所を読んで、それまで抱いていた何となくもやもやしたい印象が(やっぱりそうかということで)すっきり晴れる読者も多いのではないでしょうか。

 日本企業が長年にわたって培ってきた協働、人材の育成、コミュニティ、同質性の促進といった組織的な強み(こうしたものをいきなり否定してしまったのが2000年代初頭にかけての様々な施策だったとも言える。そうしたももの価値を再考させてくれるだけでも、本書の「価値」は高い)を生かしつつ、時代の変化に対応していくにはどうすればよいかということについて、多くの示唆を与えてくれる本だと思います。

 さらに、展開されているリーダー論、組織論、労働論に、現場で実際に仕事をしている人間の心理面に対する著者の洞察が織り込まれているのが良いです(組織行動論は著者の主たる専門分野)。

 但し、3年間の連載を1冊の新書に詰め込んだために、新書にしては密度が高い分、イシューが多すぎて「複雑」になったという感も否めなくはなく、内容が良いだけに、各論についてもっと踏み込んでもらいたかった気もしますが、新書では叶わぬ望みか。

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This page contains a single entry by wada published on 2011年11月26日 18:09.

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