【1460】 △ 東野 圭吾 『プラチナデータ (2010/07 幻冬舎) ★★★

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「手軽に楽しめる」と言えなくもない作品だが、東野作品としては物足りない。

プラチナデータ.jpg プラチナデータ 文庫.jpg  
プラチナデータ』(2010/07 幻冬舎) 『プラチナデータ (幻冬舎文庫)「プラチナデータ」2013年映画化(大友啓史:監督/二宮和也・豊川悦司:主演)

 犯罪防止のため国民のDNA情報の管理が可能となる法案が可決され、警察庁はDNA捜査システムを導入、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操るこのシステムは、現場の刑事を驚愕させるほどの精度で犯人を特定するが、そうした中、ある連続殺人事件が発生し、警視庁捜査一課の浅間は、神楽のもとへ訪れ遺留品のDNA解析を依頼するも、解析の結果は「Not Found」と出る―犯人はこの世に存在しないのか?

 まずは、前提となるDNA解析から犯人の詳細なプロファイルを割り出すということが、静的なDNA情報と各々の遺伝子モジュールがいつどのような形で作用するかという動的な実態は別物であるため、科学的には考えにくい"漫画チック"な話であり、このあたりはあまりこだわらず読むしかないのかと。

マイノリティ・リポート06.jpg システムの開発に携わった天才数学者・蓼科早樹とその兄・耕作が殺され、システムが割り出した犯人像が神楽自身であったというのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)で、犯罪予測システムの使い手(トム・クルーズ)自身が、システム側から"将来の犯人"とされ、逃避行をしながら真相を探ろうとするのと似ているように思いました。

Minority Report (2002)

 神楽の「多重人格」性は、ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』(小説的とも言える作品だが、ベースはあくまでもノンフィクション)を想起させましたが、神楽のもう一方の人格であるリュウと謎の少女スズランの関係などは読めてしまう部分もあるし、安易にいろんなものを鏤め過ぎて(しかも、その元ネタが割れていたりして)、もともと"軽い"系統の作品ではあるものの、それがますます軽くなってしまった感じがしました。

 情報統制に対する風刺ともとれますが、"プラチナデータ"に込められた国家的陰謀というものの影が薄く、結末も、やや拍子抜けするような犯人と犯行動機で、作者自身、国家的陰謀とか犯人のことはどうでもよくて、一番書きたかったのは「多重人格」についてではなかったのかと思えるような作品でした(同じ作者の『秘密』('98年)も憑依現象(多重人格)を扱った作品だった。確かに、興味深いモチーフではあるが)。

 意外と"萌え"系だった? 「手軽に楽しめる」と言えなくもない作品でしたが、もともと力量がある作家だけに、書き過ぎで、あくまでこの作家の力量水準に照らすとですが、「粗製濫造」気味ではないかなあという気も。
 その結果、手抜きと言うより、構想が中途半端なまま着手している印象を受け、出版社によって作品の質にムラがあるような気もします。

【2012年文庫化[幻冬舎文庫]】 
プラチナデータ 映画 01.jpgプラチナデータ 映画 02.jpg 「プラチナデータ」2013年映画化(大友啓史:監督/二宮和也・豊川悦司:主演)
【2012年文庫化[幻冬舎文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2011年4月 1日 22:51.

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