【1323】 ○ 村上 春樹/安西 水丸 『村上朝日堂 (1984/01 若林出版企画) ★★★★

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初期エッセイのトーンが好き。作家のイマジネーションの原点のを探るうえでも興味深い。

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村上朝日堂』 (1984/01 若林出版企画)/『村上朝日堂 (新潮文庫)

村上朝日堂 イラスト.jpg 「村上朝日堂シリーズ」の最初のもので、'82年から'84年にかけて「日刊アルバイトニュース」に連載され、'84年に若林出版企画から刊行されたもの、ということは、連載時にリアルタイムでこの文章を読めたのは首都圏に住む人に限られていたということか。

 今やノーベル文学賞候補と言われている作家の"純文学大作"を脇に置いて、こんな"雑文集"(と自分で言っている)を今更読み直してどうなのかというのもありますが、個人的にこの人の初期エッセイのトーンが好きだから仕方がない...。

 連載テーマは毎回バラエティに富んでいますが、身近な話題が結構多いかも。中には前回のテーマを引き継いで書いている部分があって、自身の「引越し」について6回(「引越しグラフィティ」)、これは、この人、神戸から上京後は相当回数の転居をしているわけで、このテーマについては複数回に及ぶ理由が解りますが、電車の切符を失くさないようにするにはどうすればよいかということについてが4回(「電車とその切符」)、挿画の安西水丸氏を困らせるためにと選んだという「豆腐について」が4回と、どうでもいいようなことを何度も掘り下げていて、でも、水増ししているとかお茶を濁しているという感じは無く、面白いんだなあ、何れも。

 やはり優れた作家というのは、何事についても様々な観点から論を展開することができるということでしょうか(これは三島由紀夫が言っていたことだが)。と言っても、そう仰々しく構えるというようなものでは無く、例えば「フリオ・イグレシアスのどこが良いのだ!」というタイトルで2回書いていて、安西水丸氏の挿画との相乗効果で噴出すような内容。他にも、そういった笑いどころが多くあります。

『村上朝日堂』吉行.jpg吉行 淳之介.jpg 「僕の出会った有名人」というタイトルでの4回の中の1つに吉行淳之介のことが書かれていて(吉行淳之介は著者が文芸誌の新人賞をとった時の選考委員)、「我々若手・下ッ端の作家にとってはかなり畏れおおい人」、「吉行さんのそばにいる時は僕は自分からほとんど何もしゃべらないようにしている」と。でも、しっかりその立ち振る舞いを観察して感心しています(後にプリンストン大学で吉行の中篇を素材とした講義をしている)。

 ノーベル文学賞候補と目される人がこんな本も書いているという事実も面白いけれども、この作家の発想法やイマジネーションの原点のようなものを探るうえでも、個人的には興味深いものがあります。

 因みに、著者が文章を書き、安西水丸氏がイラスト(挿画)を描いている本は、「文・村上春樹/絵・安西水丸」といった作者名の表記になることが多いのですが、この『村上朝日堂』は、「付録」の2編「カレーライスの話」と「東京の街から都電のなくなるちょっと前の話」は、安西水丸氏が文を書き、村上春樹氏が挿絵を描いているため、「村上春樹/安西水丸」となっています。

 【1987年文庫化[新潮文庫]】

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