【1241】 × 木村 泰司 『西洋美術史から日本が見える (2009/07 PHP新書) ★☆

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表層的な薀蓄話、内輪話に終始しているという印象を受けた。

西洋美術史から日本が見える.jpg 『西洋美術史から日本が見える (PHP新書)』 ['09年]

 タイトルに反して西洋美術史のことは殆ど書かれておらず、どちらかと言うと西洋の文化と日本の文化の違いは何かを講釈し、日本人がいかに西洋の文化を理解しないまま、その真似事をしているかを糾弾しているような本ですが、非常に表層的な薀蓄話に終始している印象を受けました。

 例えば、赤い薔薇は「性愛の女神」を表すこともあるので、客人の目に付く所に飾るのは品が無いとか、ボジョレー・ヌーヴォーが解禁になったからと言ってをホテルへドレスアップして飲みにいくのは日本人だけだとか、バレエの正しい見方はどうだとか、オペラの正しい鑑賞法はこうだとか、読者に対してマナー教室の先生にはなるつもりはないので勘違いしないで欲しいと言いながら、実質そうなってしまっているなあ。

 偽セレブ、偽ワイン通、偽オペラ通などを暴くのは、カルチャースクール系の普通のオバさんなどには受けるかも知れないけれど、結局、著者自身も同じ土俵に立ってしまっているような感じで、学問的というよりオタク的な知識をもって人を逆撫でするようなことを言うのも、これも1つの通俗であり、著者が本書で攻撃している「文化オタク」そのものではないかと。

 結局、西洋美術史を学べば西洋文化のことがわかり、そうすれば日本の文化もわかってくるというのが論旨のようですが、今のところその「西洋美術史」乃至「西洋文化」をわかっているのは、「アメリカとイギリスに留学経験を持つ自分」のような限られた人間しかいないという、そういう鼻持ちならない姿勢がミエミエで、また、著者が言う正しい西洋文化の理解というのが、西洋人と同じように考え振舞えと言っているようにも聞こえて、それでいて自分は「愛国者」であるとし、「日本人としての矜持」みたいな話も持ち出すから、結局、何が言いたいのか。

 必ずしも内容の全てを否定はしないけれど、あまりに自分の留学先での内輪ネタが多く、自分1人で盛り上がっている感じもし、インテリアの助言を請われると、「アンティークの本を何冊か飾ることと、小ぶりでエレガントな灰皿を置くことを強くお勧めしている」そうで、これは新手の「知的生活の方法」かと思ってしまった・・・。「セレブ」評論家か何かになって、ワイドショーにでも出たらいいのでは。

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