【1147】 ○ 萩尾 望都 『あぶな坂HOTEL (2008/03 集英社・クイーズコミックス) ★★★☆

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4篇の中では、登場人物(ホテルを訪れる客の数)が少ないものの方が良かった。

『あぶな坂HOTEL』.jpgあぶな坂HOTEL.jpgいまのきもち.jpg 中島みゆき「いまのきもち

あぶな坂HOTEL (クイーンズコミックス)』 ['08年/集英社]

 あの世とこの世の間に建つ"あぶな坂HOTEL"。ここにやってくる客達は、心に背負い続けてきた重荷を抱えたまま生と死の狭間でゆたっている。進むべき方向は生か死か―。

 '05(平成17)年末から'07(平成19)年末にかけて雑誌「YOU」に間歇的に発表された"あぶな坂HOTEL"を舞台とする連作「あぶな坂HOTELの人々」「女の一生」「3人のホスト」「雪山へ」の4篇を所収。

 同じ作者の『あぶない丘の家』とは関係無く、中島みゆきの1976年のデビュー作「私の声が聞こえますか」のオープニングの曲(2004年リリース「いまのきもち」のオープニングにも所収)のタイトルからとっていますが、それぞれ短篇というより中篇に近い長さがあり、それなりに楽しめました(新書版で単巻なので気軽に読めるのもいい)。

 「あの世とこの世の境目」とか「吹雪に埋もれたホテル」とか「謎の美貌の女主人」とか、考えてみれば手垢のついたモチーフなのですが、それらを組み合わせて今風に仕上げてしまうところが、大御所の健在ぶりを示しているとでも言えるでしょうか。

 ホテルの中では時間や人々の記憶も錯綜していて、そこから話は色々な展開を見せますが、これで登場人物(ホテルを訪れる客の数)が多過ぎるとドタバタ喜劇みたくなってしまい(「有頂天ホテル」じゃあるまいし)、個人的には、登場人物が少ないものの方が良かったです。

 スキーに打ち込んでいた兄弟の愛情を描いた「雪山へ」(主要"客数"2)は、プロットのひねりが効いていたように思えましたが、親子の愛情がテーマとも言える「女の一生」(客数1)が、まったく予期しなかった展開で("銀乃"っていうのは、言われてみれば昔風の名前だったが)、老女が橋を渡っていくラストにしみじみとした味わいがありました。

 しかし、考えてみれば(そんな真剣に考えるほどのことでもないのだが)、"由良"は何度も死にかけた"銀乃"を追い返しているわけで、裏を返せば、一定の《生殺与奪権》を握っているのだなあと。

死神の精度 文庫.jpg この辺りは、伊坂幸太郎氏の『死神の精度』に出てくる死神こと"千葉"などが殆ど「見届けエージェント」に過ぎなかったのとは違うわけで、ニヒルな死神の"千葉"などよりも、中島みゆき似の"由良"の方がむしろ怖いとも言えるし、"千葉"が現れたら殆どアウトだけど、"由良"ならば、現世に未練があればちょっと現世に帰して貰うようお願いしてみる余地があるとも考えられるか?

伊坂幸太郎 『死神の精度 (文春文庫)

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