【893】 ○ 四方田 犬彦 『「かわいい」論 (2006/01 ちくま新書) ★★★☆

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分析は多面的で鋭いが、「特殊」か「普遍」かテーマが見えてきたところで終わっている印象。

「かわいい」論.jpg「かわいい」論 (ちくま新書)』['06年]Cawaii!(カワイイ) 2008年6月号.jpg 雑誌「Cawaii!(カワイイ)」

 ポケモンやセーラームーンなどのキャラクター商品で世界を席巻する「かわいい」大国ニッポンにおける「かわいい」とはそもそも何なのか、それが日本から発信されたことの意味を問ううえで、改めて「かわいい」を徹底分析した本。

 太宰治の「女性徒」から枕草子にまで遡って「かわいい」の来歴を探り、大学生のアンケート調査などからこの言葉の持つ多面性を示すほか、古今東西の芸術からグロテスクなものと隣り合わせにある「かわいい」の位置を示し、日本人の心性にある「小さく幼げなもの」への志向や、ノスタルジー、スーヴニール(記念品)としての「かわいい」、成熟することへの拒否の表現としての「かわいい」...etc 極めて多面的に「かわいい」の本質に迫ろうとしています。

CUTiE 2008年5月号.jpgゆうゆう 2008年6月号.jpg 但しここまでは、テーマの周囲をぐるぐる回ってばかりいるようにもやや感じていたのが、その後の女性誌における「かわいい」の分析において、ティーン層向け雑誌「Cawaii!(カワイイ)」、「CUTiE」から「JJ(ジェイジェイ)」、更には中高年向けの「ゆうゆう」までとりあげ、中高年向けの雑誌にも「大人のかわいさが持てる人」といった表現があることに着目しているのが興味深かったです。

雑誌「CUTiE」/雑誌「ゆうゆう」

 本書によれば、TⅤアニメの国内消費量は10%で、残り90%は海外での消費であり、日本発「かわいい」は消費社会のイデオロギーとして世界中に浸透し、例えば本書に紹介されている「ハイ!ハイ!パフィー・アミユミ」の如く、すっかり無国籍化されたかのように見えますが、一方で、米国などでは「キティちゃん」の卒業年齢が比較的早期にあるのに、東南アジアでは、大人になっても受容されるなど、その受け入れられ方に、地域によって差異があるという。

「ハイ!ハイ!パフィー・アミユミ」/ムック「もえるるぶ」
ハイ!ハイ!パフィー・アミユミ.jpgもえるるぶCOOL JAPAN オタクニッポンガイド.jpg 「かわいい」が日本の「特殊」な文化なのか((「かわいい」へのこだわりや、そこからいつまでも抜け出せないこと)、それとも「普遍」的なものなのか、興味深いテーマが見えてきたところで、本書は終わってしまっているような観もあります。

 '80年代に浅田彰、中沢新一らと並んでニューアカブームの旗手とされ、また、サブカルチャーにいち早く注目した著者の(映画論、漫画・アニメ論は近年の社会学者の必須アイテムみたくなっているが、この人の場合、年季の入り方が違う)、本書におけるスタンスは意外と慎重だったという印象。
                                    

 全体を通して鋭い分析がなされていて、秋葉原の「オタク」文化や池袋の「腐女子」文化の取材は面白く、また、「かわいい」がもたらす"多幸感"が、政治的道具になり得ることを示した終章は重いけれども、「分析」にページを割いた分、テーマが見えてきたところで終わっているという印象が、どうしてもしてしまうのですが。

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