【838】 △ 黒木 昭雄 『秋田連続児童殺害事件―警察はなぜ事件を隠蔽したのか』 (2007/10 草思社) ★★☆

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核心部分が曖昧なため中途半端な印象。被告は、「ひどい」と言うより「異常」なのでは。

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秋田連続児童殺害事件―警察はなぜ事件を隠蔽したのか』(2007/10 草思社)黒木 昭雄(警察ジャーナリスト)2010年11月2日死去。52 歳(自殺?)

 '06年に起きた「秋田県連続児童殺人事件」を迫った本で、著者は元警察官のジャーナリスト。これまでにも、'99年の「栃木リンチ殺人事件」、'02年の「神戸大学院生リンチ殺人事件」などを取材し、警察の捜査ミスや事件の隠蔽工作を糾弾していて、その後、栃木の事件では、被害者遺族による国賠訴訟により、最高裁判決('06年)で警察の怠慢と不作為が全面的に認められるに至っています。

 秋田のこの事件では、畠山鈴香被告の特異な言動に注目が集まりましたが、著者は本書において、より問題なのは警察の事件への対応であり、とりわけ、畠山被告の長女・彩香ちゃんの死亡が最初は事故だと見られたことについて、意識的な捜査放置と事実の捏造があったと見ています。
 畠山被告がその過去において、風俗嬢だった、自宅で売春していた、長女を虐待していた等の噂が週刊誌等に載るようになったのも、噂の流出元は警察であり、初動ミスや捏造を隠蔽するための工作であったと―。

 では、なぜ警察はこうした隠蔽工作をしたのか? 畠山被告と警察との間に何か特別な繋がりがあったのではないかと著者は匂わせていますが、それが何であり、そのことを証拠づける証拠は何なのかという具体的記述が本書には無いため、結局は読者の想像に委ねるような形で終わってしまっていて、彩香ちゃん事件発生時に適正な捜査が為されていれば、米山豪憲君殺害事件は発生しなかったという著者の意見には同意できるものの、全体としては週刊誌的とも言える中途半端な印象。

 個人的に関心を抱いたのは「犯罪被害給付制度」について触れられている点で、自らが犯した長女殺害事件を敢えて蒸し返そうとした畠山容疑者の行為が給付金目当てであるとすれば、2件の殺人とも、稚拙ながらも"計画性"を持ったものだったのではと思った次第です。

 ここで思い当たるのは、コリン・ウィルソンが計画殺人を行う者について「彼らに欠けているのは、生命の価値への認識であるが、我々の全てがある程度それを欠いていて、殺人はその普遍的な欠乏の表明である」と述べていることで、長女殺害という罪を犯した後も給付金に固執し続けたとすれば、常人の域を脱した価値観の転倒が感じられます。

 公判で畠山被告は、豪憲君の殺害を認めていていますが、長女への殺意を否認し、弁護人を通じて極刑にして欲しい、たとえ死刑でも控訴しないと言っているとか。

 「ひどい事したのだから極刑は当然」というのが世論の趨勢だと思われますが、罪の償いと言うより、自らの命も含め人命に対する価値を見出せない被告の、"ひどい"と言うよりむしろ"異常な"人格をそこに感じてしまうのは自分だけなのか。

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黒木 昭雄(くろき あきお)警察ジャーナリスト2010年11月2日死去。52歳(自殺?)。

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