「●インカ・マヤ・アステカ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒【759】 柳谷 杞一郎 『マチュピチュ』
絵画資料を豊富に掲載、解説文もわかりよい。
『インカ帝国―太陽と黄金の民族(「知の再発見」双書)』 『マヤ文明―失われた都市を求めて (「知の再発見」双書)』『アステカ王国―文明の死と再生 (「知の再発見」双書)』
インカ帝国の正確な歴史が残っていないのは、インカの文化が文字をぜんぜん持たなかったからで、にも関わらず、インカについてのかなりの報告が残されているのは、征服当時または直後、スペイン人が精力的に伝承や口碑を書きとめ、また絵画に描いたためです。
本書はインカの歴史を辿りながら、主にスペイン人が描いた、そうした絵画を多く紹介していて、インカの時代の社会や文化、人々の生活がどのようなものであったかを身近に感じさせてくれます。
インディオの末裔が描いた歴史画などもあり、それらがヨーロッパ人の西洋画の画風と全く異なるのが面白い、と言うか、ヨーロッパ人の描いたものが、インカの歴史的出来事をテーマにしながらも、ヨーロッパの宮廷画風のトーンになってるのが興味深いです。
美術品・工芸品、遺跡の写真なども多く含まれていますが、やはり、挿入されている色彩豊かな絵画の数量で、一般書レベルでは他の"インカ本"を凌駕していて、解説文もわかりよい。
インカの歴史そのものは、どうしても征服時のことに重点が置かれ、この部分は、本書も含め大体どの本も同じような年代記になりがちですが(勇敢な皇帝の最期など、歴史が物語化している点では、日本史における戦国時代の戦記と似ている)、本書ではそれだけにとどまらず、インカ帝国がスペイン人により滅ぼされた後、インカの文化とヨーロッパのそれがどのように融和していったかということにも触れられています。
創元社の「知の発見」双書の1冊で、美術本にも近い内容でありながらB6版という手頃なサイズで携帯しやすく、このシリーズでは、マヤ文明、アステカ王国をテーマにしたものもそれぞれ刊行されています。