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マヤ学の基本書。最大の謎は、なぜ華やかな学芸を誇った文明が滅んだのかということ。
『マヤ文明の謎』講談社現代新書〔'84年〕
本書冒頭にありますが、マヤ・アステカ・インカ文明のうちマヤは、同系の言語を話す「王国」の集団であり、マヤという国家があったわけでもなく、またその起源も紀元前2000年に遡ると考えられているぐらい古いものです(他の2つの文明は13〜15世紀に王朝が始まったとされていて、ただしインカ帝国は、文化史的にはそれ以前の紀元前からあるアンデス古代文明の流れを引いている)。
カンペチェ州、カラクムールの古代マヤ都市
さらにマヤ文明は、西暦10世紀には最盛を誇った古典期を終え、ヨーロッパ人到来の500年前にはマヤの都市はほとんど廃墟となっていたという点でも、16世紀にコルテス、ピサロによって一気に滅ぼされた他の2つの文明とは異なります。
本書は、その多岐にわたるマヤ文明の全貌(といっても一部しか解明されていないということになるが)と特質を理解する入門書、基本書といえますが、著者が有名な「ティカル遺跡」(現在のグアテマラの北部にある)を訪問するところから始まり、マヤの生活や社会構造、宗教や数表記、暦法などを解説していく過程には引き込まれるものがあります。
何と言っても一番驚かされるのは、260日周期と365日周期の2つの暦を組み合わせで用いる極めて正確な暦法と、芸術的というより、芸術そのものになっている絵文字ではないでしょうか。
なぜ、望遠鏡も使わずに精密な天体観測が可能だったのか? なぜ大ジャングル内の都市は自在な交通を確保できたのか? こうした謎を本書では1つ1つ解き明かしていますが、「天体観測」については、エジプトのピラミッドを利用したやり方とほぼ同じ、ジャングル内の交通路については、その辺りが湿地帯であることに思いを馳せれば何となく答えは見えてくる―。
ところが、どうしてもわからないのが、なぜ、華やかな学芸を誇った文明が音もなく滅び去ったのかということで、本書にも疫病説、食糧難説など多くの説が挙げられていますが、決定的なことはわかっていないようです。