「●ま行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【544】 又吉 栄喜 『豚の報い』
文体やフレーム破壊にパワーを感じる一方、構成的には今ひとつ。
『阿修羅ガール』〔'03年/新潮社〕 『阿修羅ガール (新潮文庫)』〔'05年〕
2003(平成15)年・第16回「三島由紀夫賞」受賞作。
女子高生のアイコは、好きでもないクラスメイトの佐野とセックスしてしまい、行為のあと嫌悪感に陥り、相手を蹴飛ばしてホテルから飛び出す―。
「減るもんじゃねーだろうとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心」と、ナンかテンポいい書き出しだなあと思って第1部を読み始めましたが、小気味良い女子高生の独白体も、ホントは佐野なんかより陽治が好きで...といった陳腐な純愛話と学園内スケバン抗争ばかりがだらだら続いて、さすがに少し飽きてくる...と思ったら途中から佐野の行方不明に始まり色々と騒ぎは大きくなって、ミステリー仕立てに加えてスラップステッィクな感じに。
それが第2部に入ると、「崖」「森」「グルグル魔人」の「三門」構成で、「崖」ではアイコは「三途の川」上空にいて、「いくな。もどれ」といった陽治からのメールメッセージ(文中、巨大活字で書かれている)を受けていて、ここまでは、「何でもあり」の中にも1つの流れがあって、まあまあ面白かったです。
でも「森」「グルグル魔人」で、意図的にそうした小説的な流れを断ち切っているかのように思え、それがあまり効果的だったとは思えませんでした(特に「森」は唐突すぎた)。
結局、何だかよくわからないうちに終わってしまって、と思ったら第3部があって、しっかり第1部と第2部の「三門」のそれぞれの関係を解説しているので、親切と言えば親切なのですが、小説としてこれはどうなのだろうか。
アイコの成長物語だとしても(である必要もなかったと思うが)、第3部の語り手は第1部よりずっと老けた感じがして繋がらないし...。
文体にも、どんどん自らのフレームを破壊していく様にもパワーを感じますが、構成的にはうまくいっていないような気がしました。
【2005年文庫化[新潮文庫]】