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「●「日本推理作家協会賞」受賞作」の インデックッスへ
海外取材して力(リキ)はいってるという感じだが、「密室」に疑問あり。
『マレー鉄道の謎 (講談社ノベルス)』〔'02年〕/講談社文庫〔'05年〕
2003(平成15)年度・第56回「日本推理作家協会賞」受賞作。
マレー半島キャメロン・ハイランドを観光で訪れた推理作家・有栖川有栖と臨床犯罪学者・火村英生のコンビは、1ヶ月前に起きたマレー鉄道の追突事故でビジネスパートナーを失ったという百瀬夫妻と知り合うが、2人が百瀬邸に招かれたその日に、離れの密閉されたトレーラーハウスの中で自殺とも他殺とも区別のつかない死体が発見される―。
それまでの著者の国名シリーズと違い、実際に現地取材して現地を舞台とした作品であり、力(リキ)はいってるという感じで、冒頭は異国情緒に満ちた観光旅行記風で、個人的にはマレーシアに何度か行ったことがあり、但し、国内の移動は白タクか航空機だったため、鉄道を利用する機会はありませんでしたが、それでも懐かしさもあり、読んでいて退屈しませんでした。
物語の方は、内部から目張りされた密室状態のトレーラーハウスで殺人事件の後、さらに第2の殺人が起き―。
著者は自他ともに認める「新本格派」と言われる系譜だそうで、この作品も謎解きに的を絞ってあり、気分転換などに丁度良い読み物という感じ。ただし、タイトルや表紙からして、鉄道ファン憧れの(自分は所謂"テッチャン"ではないが)マレー鉄道の中でメインの事件が起きるのかと思いきや、トレーラーハウス内ということでやや拍子抜けした感じも。
それでも、犯人は誰か、どうやって「密室」を完成させたのか、という興味で、比較的長めの作品を一気に読ませるし、アリス・火村コンビの時に軽妙なやりとりも悪くないです。
ただし読み終えて振り返ると、犯人の犯行の動機はともかく、犯人がわざわざ現場を「密室」にした動機というのが弱い気がし、トリックそのものについても物理的な疑問を感じました(コレって労力のワリには完遂出来るという確実性に乏しいのでは?)。一応、著者の代表作と言われている作品らしいけれども、正直かなり物足りなかったといったところでしょうか。
【2005年文庫化[講談社文庫]】