【542】 ○ 渡辺 淳一 『冬の花火 (1975/11 角川書店) ★★★★

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生と芸術、生と性の一体化した姿を鮮烈に描いた作品。

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冬の花火 (集英社文庫)』『冬の花火』文春文庫

冬の花火 (角川文庫)
冬の花火 (1975年)
冬の花火 (1975年) - obi.jpg 渡辺淳一と言えば最近は男女の性愛を描いた作品が目立ちますが、医師の目から見た人間の生死を描いた作品群があるほかに、日本で最初の新劇女優・松井須磨子をモデルとした長編『女優』('83年/集英社)などの伝記小説もあります。

中城ふみ子.jpg この作品も伝記小説の系譜で、「乳房喪失」の女性歌人で知られ、31歳で夭逝した中城ふみ子(1923-1954)をモデルにしたものです。

 乳がんに冒されながらも病床で、自らの命を削るかのように次々と、当時としてはセンセーショナルな愛の歌を詠んで世間に発表し続ける主人公...というと、何か悲劇的な話かとも思われますが、様々な男性遍歴を経てきたこの女主人公が、入院後も歌人や病院の医師を愛人とし、病室に連れ込んで交情する様はいささか呆れるほどで、それを描く作家の筆致は、最近の官能小説に通じるものもあります。しかし主人公の生き方は凄絶なものには違いなく、生と芸術、生と性の一体化した姿を鮮烈に描いた小説とも言えます。

 中条ふみ子が入院し亡くなったのは渡辺淳一氏の将来の職場となる札幌医大病院であり、当時渡辺氏は医学生でしたが、彼女が入院していた時にその病室を見たことはあるそうです。また、小説にも登場する彼女の恩師であり敬慕の対象であった歌人は中井英夫です(日本3大推理小説の1つ『虚無への供物』の作者としても知られている)。

 渡辺淳一は、初期作品で芥川賞候補になりながら最終的には直木賞をとりますが、初期作品で直木賞候補になりながら最終的には芥川賞をとった作家に松本清張がいます。松本清張の初期作品にも、「菊枕」('53年発表)という女流俳人の杉田久女をモデルにしたものがあったのを思い出しました。

 【1979年文庫化[角川文庫]/1983年再文庫化[集英社文庫]/1993年再文庫化[文春文庫]】

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