【442】 ○ 高杉 良 『不撓不屈 (2002/06 新潮社) ★★★★

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利他主義と反骨の精神で権力と戦った税理士の「不撓不屈」を描く。

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不撓不屈』['02年/新潮社]/新潮文庫 (上・下)〔'06年〕 映画「不撓不屈 [DVD]

kaichou.jpg 税理士の飯塚は、関与先企業の利益還元「別段賞与」の支出処理を巡る税務当局の誤った法解釈に対し、当局相手に訴訟を起こすが、メンツを潰された当局は、税務調査などあらゆる手を使って飯塚への嫌がらせを始める―。

 '01年から雑誌「プレジデント」で30回にわたって連載されていた、TKC創設者・飯塚毅(1918‐2004)を題材とした小説で、昭和38年に勃発し終結までに7年を要した「飯塚事件」に焦点を当て、職業会計人としてのその理想と足跡が描かれています('06年に映画化された)。

 焦点となっている「別段賞与」とは、利益の一部を臨時賞与として一旦社員に支給し(損金計上)、それ(源泉控除後の金額)を会社が借り入れるもので、現在の法人税法では認められていませんが、「賞与引当金」についての法整備がなされていなかった当時においては、"節税"でこそあれ"脱税"には当たらなかったという、今と当時の法環境の違いを、本書を読む前提として押さえ渡辺美智雄.jpgておいた方がいいかも知れません。

 税務当局のマスコミを使ったりしての卑劣な攻撃は眼に余るものですが、飯塚氏も与野党の政治家に必死で支援を求め、そのため多くの政治家の名前が出てきます。
 その中で一番活躍するのが、税理士出身の当時1年生議員だった自民党の渡辺美智雄(1923‐1995)で、精緻な論証で当局を追い詰めていきます(特定の士業の利益代表という立場もあっただろうが、ホント、この手の問題に強かった)。

 小説の後半がほぼ税制小委員会の議事録で構成されていて、これを "引用"ばかりでつまらないと見るか、"事実"として興味を持って読むかでこの作品に対する評価は違ってくるかと思いますが、個人的には、作為の入りようがない分、ドキュメント小説として緊迫感があり良かったと思います。

 それにしても、貧しい布団職人の家の生まれながら、高校卒業も大学受験も公認会計士試験もすべて首席、英語もドイツ語も独学で完璧にマスターしたという飯塚氏の秀才ぶりはスゴイ(こうした秀才も今の時代だと、官僚や弁護士、監査法人所属の会計士になってしまうのではないか。そうした意味でも不出世の人物かも)。

映画「不撓不屈」.jpg映画「不撓不屈」ド.jpg 宗教(禅)的鍛錬を背景とした利他主義と反骨の精神で、家族の支えのもと遂に権力に勝利する様は、「不撓不屈」と形容するに相応しいと思いました。

 
 
 

0映画「不撓不屈」.jpg映画「不撓不屈」 (2006年/ルートピクチャーズ)
監督:森川時久
出演:滝田栄/松坂慶子/三田村邦彦/田山涼成/中村梅雀/夏八木勲/北村和夫 ほか

 【2006年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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