【331】 ○ 陰山 英男 『本当の学力をつける本―学校でできること 家庭でできること』 (2002/03 文藝春秋) ★★★★

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示唆に富み、説得力もある。やや感動的で、やや複雑な思いも。

本当の学力をつける本.jpg本当の学力をつける本―学校でできること 家庭でできること』['02年/文藝春秋] 見える学力,見えない学力.jpg 岸本裕史 『見える学力、見えない学力 (国民文庫―現代の教養)』['96年/大月書店]

陰山英男.jpg '02年出版の本書はベストセラーになり、著者である陰山英男氏の「百ます計算」や「陰山メッソッド」は広く世に知られることになりますが、本書執筆時には著者は未だ、兵庫の進学塾もない山あいの小学校の一教諭でした。
陰山 英男 氏

 著者が本書でも提唱している「百ます計算」は、見える学力 見えない学力』('96年/大月書店)という著作がある岸本裕史氏が創案したものですが、本書の内容は、方法論だけでなく、学力観から教育の姿勢まで、著者が師とする岸本氏の主張と重なり、著者は岸本氏の考え方の良き実践者であり伝道者であるという印象を受けました。

 岸本氏は「読み書き計算」に代表される基礎学力を重視し、「落ちこぼれをなくすにはどうすればよいか」といことを常に課題としてきた方ですが、本書の基本姿勢も同じ。家庭における教育や生活環境の重要性を力説する点も同じ。
 ただし単なる賛同意見ではなく、10年以上にわたる実践を経て得た成果と確信に基づいての主張となっていて、示唆に富み、説得力もあります。

 また本書を通じて、教師が学習指導要領という枠の中で苦闘し、ゆとり教育と学力低下の間で悩んでいる実態も窺えます。
 少人数学級と不適格教師の問題にも触れている(つまり少人数学級の促進が不適格教師を"生き延び"させることに繋がることがあるという問題)。

 最終章に「反復練習」を基本とした実践が全国に拡がっていく過程が書かれていますが、親の学歴や収入などによって進路が左右されたり、学力をつける機会を失ったりすることがないようにという公立校の一教諭(もちろん著者のことですが)の熱意がベースにあったと思うとやや感動的ではありました。

 ただ、この本の帯に「有名大学合格者が続出」「驚異的に伸びる!」といった文字が躍っているのを見ると、1つの方法論に親が傾倒し、小学校が「百マス計算」を入学案内の謳い文句にするような流れとあわせ、やや複雑な思いもします。

 【2009年文庫化[文春文庫]】

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