【213】 ○ 宮城 音弥 『超能力の世界』 (1985/05 岩波新書) 《『神秘の世界―超心理学入門』 (1961/11 岩波新書)》 ★★★★ (○ 宮城 音弥 『霊―死後、あたなはどうなるか』 (1991/11 青春出版社) ★★★☆)

「●超心理学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【214】 松田 道弘 『超能力のトリック
「●み 宮城 音弥」の インデックッスへ 「●岩波新書」の インデックッスへ

心理学の権威が超能力を「科学」した先駆的書物。

神秘の世界979.JPG神秘の世界2.jpg     『超能力の世界』.png 超能力の世界.jpg
神秘の世界―超心理学入門 (1961年)』『超能力の世界』岩波新書〔'85年〕

 宮城音弥(1908-2005/享年97)による本書『超能力の世界』は'85年の出版ですが、'61年に同じ岩波新書から出た『神秘の世界』の24年ぶりの改訂版です(内容は同じであるため復刻版と言っていい)。著者は、臨床心理学者であり精神医学者でもあった人で、心理学の入門書も多く書いていますが、この本は初版当時から「超心理学入門」と謳っていて、一般心理学とは一線を画しています。

 著者が心理学の権威だったからこそこうしたテーマで書けるのであって、仮に普通クラスの学者が当時こうした内容で本を書けば、学界から孤立したのではないでしょうか。但しこの本は、〈スピリチュアリズム〉とも一線を画しているため、霊魂不滅論者の期待に沿うものではありません。

 超能力をESP、遠隔操作、予知に分け、過去の超常現象の報告例の科学的信憑性を検証し、サギ師の事例(無意識的サギを含め)や、死後の生存(憑依や死者との交信事例)にも触れています。

 多くの超常現象の報告も興味深いですが、著者の統計的手法などを用いた科学的・論理的分析は、「科学する」とはどういうことかをそのまま示しています。そして、何らかの特別な能力の存在を認めなければ説明がつかない"有意な"結果の報告も多くなされています。

宮城音弥 霊―死後、あたなはどうなるか.jpg 著者自身にとってもこうした事例は生涯における関心の対象であり続けたようで、'91年には『霊―死後、あたなはどうなるか』(青春出版社)を著しています。

 この中では、岩波新書の冒頭でも取り上げた、顕著なESP能力を発揮したハイパー夫人のケース(有名な心理学者のウィリアム・ジェームズも、実験にを施してその超常的な能力を確信するに至った)を再び詳しく取り上げたり(著者自身も、夫人には何らかの遠感能力があったという立場)、臨死体験を分析したり(丁度この頃、立花隆氏の、後に刊行される『臨死体験』('94年/文藝春秋)のベースとなるレポート記事が雑誌などに発表され始めていた)、予知能力や「前世体験」と言われるののを解説したりしていますが、何れも「霊」の存在は認めがたいが「超能力」の存在は認めざるを得ないといいう立場です。

 著者は、超心理学とスピリチュアリズム(心霊論)を峻別する一方、宗教(乃至は宗教的なもの)を否定しているわけではありません。但し、超心理学の「学問」としての研究が進めば、人間は「霊」についての考え方を改めざるを得なくなるだろうという考えを示しています。

ハイパー夫人.jpgパイパー夫人 (レオノーラ・パイパー)
 Leonora Piper (1857-1950)ニューハンプシャー州生まれ。
 さまざまな霊現象を起こし「万能の霊能者」と呼ばれた。

 SPR(英国心霊現象研究協会)の不正霊媒摘発係として、「SPRの審問官」と呼ばれたリチャード・ホジソン(Richard Hodgson、1855-1905)(ケンブリッジ大学教授)は、ASPR(米国心霊現象研究協会)の活動推進のためにアメリカに派遣され、ボストン在住の霊媒ハイパー夫人に会い、不正霊媒摘発係として調査を始めることになった。

 ハイパー夫人は、千里眼、テレパシー能力、透視能力、霊言など、あらゆる霊現象を起こす万能の霊能者として知られていたが、極端に懐疑的だったホジソンの調査は、厳格を極めた。ハイパー夫人の日常生活の細部に至るまで調査しただけでなく、探偵を雇って尾行させ、降霊会のための情報収集をしていないかどうかを監視させたりまでしたという。そして、秘密漏洩防止のために、降霊会に参加する人の名前はすべてSmithに変えて統一したり、新聞を読むのを禁止したりして、徹底的に不正を行えない状況にして調査を行ったが、ハイパー夫人には、全く不正が見つからなかった。ホジソンは、どうしても自分の手では不正の証拠を掴めないため、ハイパー夫人をイギリスに送って、イギリスの本部でも徹底的に調査を行ったが、それでも不正を見つけることができなかった。
 イギリスでの調査の後、ハイパー夫人はアメリカに戻り、再びホジソンによる調査が始まったが、不正の証拠が見つからないものの、ホジソンは懐疑的な気持ちが消えていなかった。

 しかし、ホジソンの友人のジョージ・ペラムが事故死をして、ペラムの霊が現れるようになってから、彼の態度は変わった。ハイパー夫人の降霊会にペラムの友人を匿名で複数参加させて会話の内容を確認したり、面識のない人も混ぜてみたり、いろいろと試した結果、ホジソンは「人間は死後も霊として存在している」ということを確信するに至ったという。そして晩年には、彼自身にも霊能が発現し、パイパー夫人の指導霊達が、彼の元に降りてくるようになり、霊と会話ができるようになったという。
 ホジソンは生前に、「自分が死んだらパイパー夫人を通してメッセージを送る」と言ったとされ、死後8日目に、パイパー夫人を通じて霊界からメッセージを送ってくるようになったという。

(Richard Hodgson, "A Record of Observation of Certain Phenomena of Trance"(1892)を参照)

宮城 音弥 『』『精神分析入門』『神秘の世界』『心理学入門[第二版]』『人間性の心理学
宮城音弥 岩波.jpg

《読書MEMO》
●超常現象の種類...テレパシー/遠隔認知または透視(ESP)/遠隔操作(サイコキネシス)/予知(2p)
●精神の一部分が人格から分離したときに、心霊現象のような現象が起こるとすれば、霊魂を仮定しなくとも、無意識によってこの現象の解釈は可能(181p)
●超心理学は深層心理学とスピリテュアリズム(心霊論)の間に位置する(210p)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1