【2903】 ○ ギ・ド・モーパッサン (青柳瑞穂:訳) 『モーパッサン短編集Ⅱ (1971/02 新潮文庫) ★★★★

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短編の中から「都会もの」を集めたもの。結婚や家族に対してシニカルなものが多かった。
モーパッサン短編集(二) (新潮文庫).jpgモーパッサン短編集(二) (新潮文庫)ジャン・ルノワール「ピクニック」dvd.jpg ジャン・ルノワール「ピクニック [DVD]
 ギ・ド・モーパッサン(1950-1993)の新潮文庫の短編シリーズ(全3巻)の「田舎もの」を集めた第1巻に対し、パリ生活を扱った「都会もの」を集めたのがこの第2巻で、1887年刊行の短編集『オルラ』所収の「あな」ほか、「蠅」(1890年)、「ポールの恋人」(1881年)、「春に寄す」(1881年)、「首飾り」(1885年)、「野遊び」(1881年)、「勲章」(1884年)、「クリスマスの夜」(1882年)、「宝石」、「かるはずみ」(1886年)、「父親」(1885年)、「シモンのとうちゃん」(1881年)、「夫の復讐」、「肖像画」、「墓場の女」、「メヌエット」(1883年)、「マドモアゼル・ペルル」(1886年)、「オルタンス女王」、「待ちこがれ」、「泥棒」(1882年)、「馬に乗って」、「家庭」(1881年)の22編を収めています(カッコ内は何れも短編集の一編として刊行された年)。

 「あな」は、ボート釣りの穴場を巡る争いで殴打傷害致死罪で訴えられた男が独特の陳述を展開する話。「蠅」は、かつて5人で1艘のボートを共有した若者たちと"彼女"の青春譚(この場合のボートは女性の比喩か)。「ポールの恋人」は、これも人々がボートで行きかう水上カフェを舞台とした、同性愛がモチーフとなっている珍しい作品。「春に寄す」は、陽春の船着場で若い男が娘を誘惑しようとしたら、奇妙な男に恋愛と結婚の落差の話を聞かされて...(作者の結婚に対する悲観的な見方が表れている作品か)。

La parure.jpgLa parure(首飾り)0.jpgLa parure(首飾り)4.jpg 「首飾り」(La parure)は、パーティにで注目されたいがための見栄から借りたダイヤの首飾りを失くしてしまった女が、取り敢えず贋物を戻しておいて、弁済しようと長年にわたって身を粉にして働き、やっと金をためて同じダイヤの首飾りを買って密かに貸主に戻すが...(O・ヘンリーの短編みたい。夏目漱石がオチを批判したそうだが、彼女自身は人間的には以前よりずっと堅実な人になったに違いない)。このジャン・ルノワール「ピクニック」2.jpg作品は2007年にクロード・シャブロル監督により「首飾り」に続く第2弾としてテレビドラマ化されています。「野あそび」は、ジャン・ルノワール監督の映画「ピクニック」('36年/仏)の原作。考えてみれば結構エグい話ですが(俗に言えば疑似"親子丼")、全体の描写が美しいのと(映画も監督の父の印象派の絵画のように美しく撮られていた)、最後にやっぱり恋愛と結婚の落差が浮き彫りに(モーパッサンは生涯独身だった)。

 「勲章」は、勲章を貰うことに固執する男が、代議士に取り入って画策・奔走しどんな仕事でもやるが、実はもう勲章は家にあった...(彼の奥さんはどうやって勲章を手に入れた? やはり、交換条件としてアレしたとしか考えられない?)。この作品、溝口健二監督の「雨月物語」('53年/大映)の一部にモチーフとして使われているようです。「クリスマスの夜」は、太った女がすきな男がクリスマスの夜にナンパした女がベッドで産気づいて大騒動に(実は、妊娠していたわけ)。

 「宝石」は「首飾り」の逆で、偽と思っていたものが真であって莫大な富を得た男の話(「首飾り」が不幸に見えてそうとも言えない話であるのに対し、こちらは、結局は男が不幸な結婚をしてしまう点でも対照的か)。「かるはずみ」は、結婚生活がやや倦怠期にさしかかっている夫が、妻に促されれるままに過去の女性遍歴を話したばっかりに...(何やら妻の危なっかしい情熱に火を点けた?)。「父親」は、若い頃に子供の束縛から逃れた男が、老いてから今度は孤独から逃れるため子供を見ようとする話(切ない)。

Le papa de Simon 2.jpgLe papa de Simon 1.jpgLe Papa de Simon by Guy de Maupassant.jpg 「シモンのとうちゃん」(Le papa de Simon)は、父無し子として仲間から苛められていた少年に訪れた幸せ(珍しく?いい話だった!)。「夫の復讐」では、仲が良いとされていた夫婦間で、ちょとしたことが夫の嫉妬心を掻き立てる(これ、修復が難しそう)。「肖像画」は、作者の母親を投影しているのか。「墓場の女」は、墓場に佇む喪服の"未亡人"の秘密(結構エグいかも) 「メヌエット」は、メヌエットを踊る老人を通してみる、誰にでも訪れる人生の老い。

 「マドモアゼル・ペルル」「オルタンス女王」「待ちこがれ」は、いずれも女の哀れがテーマですが、「マドモアゼル・ペルル」は、ある人物が自分を愛していたことを知らされたのが本当によかったのか、語り手同様に考えさせられます。「オルタンス女王」も老女物ですが、子供のいない女性が死の間際に、いないはずの子供の面倒をだれが見るのか心配の余り憤死するという凄まじい話。

 「泥棒」は、酔っぱらって"軍隊ごっこ"をしていた3人の若者がたまたま泥棒を捕まえるが、捕まえた後も"軍隊ごっこ"を続け、泥棒に"死刑"を宣告したので泥棒はビックリ(モーパッサン自身の青春時代が反映されているよう)。「馬に乗って」は、奮発して馬車を借りてピクニックに出かけて家族だったが、馬が暴れて悲惨な結末に...("家族的"なものに対する作者のシニカルな見方を感じる。それは次の「家庭」も同じ)。「家庭」は、老いた母親が死に、自分は途方に暮れるが、妻は現実的で、親戚に連絡する前に老人の持ち物を漁る―ところがその母親が生き返る(しかし、結構いい加減な医者だなあ)。

 全体を通しても、結婚や家族に対してシニカルなものが多かったでしょうか。因みに、このシリーズの第3巻は、モーパッサン自身も従軍した普仏戦争を扱った「戦争もの」と、超自然現象を取材した「怪奇もの」を集めて収めています。

ジャン・ルノワール「ピクニック」dvd.jpgピクニックelle.jpg「ピクニック」●原題:PARTIE DE CAMPAGNE●制作年:1936年●制作国:フランス●監督・脚本:ジャン・ルノワール●製作:ピエール・ブロンベルジェ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:ジョゼフ・コスマ●原作:ギ・ド・モーパッサ「野あそび」●時間40分●出演:シルヴィア・バタイユ/ジョルジュ・ダルヌー(ジョルジュ・サン=サーンス)/ジャック・B・ブリュニウス/アンドレ・ガブリエロ/ジャーヌ・マルカン/ガブリエル・ファンタン/ポール・タン●日本公開:1977/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(80-02-15)(評価:★★★★)●併映:「素晴しき放浪者」(ジャン・ルノワール)
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