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人材登用のトレンドを探るが、人事専門誌に書かれていることの域を出ない。
『人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)』 ['08年]
ジャーナリストである著者が日本のトップ企業の人事の基本方針、主に幹部社員の登用のあり方について取材していて、新書のわりには取材量は豊富ですが、タイトルにあるような「出世の方程式」がそれらから導き出されるというものではなく、結局、人材登用を決める側は決める側で自社適合の仕組みを考えなければならないし、社員は社員で企業に寄りかかるのではなく自立した職業人として、或いはリーダーとして成長していかなければならないということでしょうか。
社長に上り詰めた人、一旦置かれた苦境から立ち直ってヒット商品を生み出した人など華々しい例も出てきますが、そうしたこと以外に、最近の企業の人事・人材育成の動向などが、具体的な選抜方法や評価、研修制度、賃金制度なども含めて広く紹介されていて、その部分については参考になったと言えば参考になったし、オーソドックスと言えばオーソドックス。
参考になった点は、成果主義の弊害ということが昨今言われるものの(経営トップの外向けの発言はともかくとして)企業の人事部は成果主義というものをさほどに否定していないように思えたこと、但し、仕事の結果だけでなく資質的なものを見る傾向にあること、また、大企業では幹部候補社員の選抜時期を早める傾向が近年見られるということなどでしょうか。
更に、管理職への道がこれまで閉ざされていた女性や外国人などに対する処遇をダイバーシティマネジメントの観点から見直す傾向にもあるということですが、人事専門誌などにある近年の動向情報や今後の人事マネジメントの展開予測の域を出るものでは無く、まあ、再確認できたというぐらいでしょうか(この新書の"プレミア"の意味は実は"プライマリー"ではないかと、時々思う)。
気になったのは、各社の人材登用の事例がいまだに人材の「選抜」という観点で紹介されていることで、人材にゆとりのある大企業ならともかく、中小企業では人材の「確保」そのものが大きな課題になっていて、少子高齢化社会の到来を考えれば、今後は限られた人材をどう生かすかということの方が、企業規模を問わず課題になってくるのではないかと思われたこと(大企業の方がすべてにおいて進んでいるとは限らない)。
女性の活用だけでなく、コースに乗れなかったため目標を喪失している人、会社や仕事に対してコミットメントしきれていない人を、どう活性化し再生していくかということも、広い意味でのダイバーシティマネジメントだと思うのですが。
2008年6月19日 日経朝刊