【829】 ○ サイモン・バロン=コーエン/パトリック・ボルトン 『自閉症入門―親のためのガイドブック』 (1997/02 中央法規出版) ★★★★

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基本入門書の"新古典"。科学的関心から興味を持つ人にも手に取りやすい。

自閉症入門 親のためのガイドブック.jpg自閉症入門5.JPG Professor Simon Baron-Cohen.jpg Simon Baron-Cohen
自閉症入門―親のためのガイドブック』〔'97年〕

自閉症スペクトル.jpg 自閉症について書かれた本で「入門書の古典」とされてきたのは、'71年原著出版のローナ・ウィング(英国)の『自閉症児―親のためのガイドブック』('83年/川島書店)で、その全面改訂版にあたる'96年刊行の『自閉症スペクトル―親と専門家のためのガイドブック』('98年/東京書籍)は、現在でも自閉症入門書としてはベストの部類のものであると思われます。

 一方、本書『自閉症入門―親のためのガイドブック』('97年/中央法規出版)は、ウィングの改訂版出版に先駆けて'93年に原著刊行されたもので、それまでの紆余曲折があった研究成果を総括した基本入門書ですが(原題は"Autism: The Facts")、やや大部な『自閉症スペクトル』(邦訳で342ページ)に比べると167ページと半分程度のボリュームで、易しく書かれていて図版も多く、手に取りやすい入門書という点では一押しです。

サリーとアンの実験.gif 「自閉症は家族に遺伝するか」といった自閉症に関する疑問についての科学的解説や、教育によって何ができるか、自閉症の子どもが大きくなったときどうなるかといった現実問題への対処方法を噛み砕いて説明していて、推薦図書リストや用語集なども付されています。

 著者のバロン=コーエン(英国)は、「サリーとアンの実験」として知られる有名な「心の理論」の提唱者で、これが自閉症にのみ当てはまる特徴なのかということについては議論があるようですが、「他人が考えていること理解することが苦手」ということを例証するものとしては画期的な成果で、その後も多くの本で彼の理論は引用されています(但し本書では、自らの理論を「心理的な問題」の1つについての解説として用いているだけで、自閉症について多面的かつコンパクトに纏めるという狙いのもと、全体の記述バランスに配慮がされている)。

 自閉症の子どもが時に見せる得意な能力(著者はこれを「能力の島」と呼んでいる)についても紹介されていて、3歳の少女ナディアの描いた躍動感溢れる馬の素描(本書表紙に使われているのはナディア5歳の時に描いた絵)や、ウィルシャー(Stephen Wiltshire )という少年の1度見た記憶だけを頼りに描いた精緻な風景画は、脳の神秘を扱った日本のテレビ番組やナショナル・ジオグラフィック・チャンルなどで見た人も多いのでは。
 「親のためのガイド」という副題がついていますが、一般の人が科学的関心から読んでも、充分に期待に応える内容だと思われます。

 London-based artist Stephen Wiltshire travels to Tokyo where he views the city
from above and below and draws the buildings and skyscrapers in 7 days, all from
memory.
Stephen_in_Tokyo.jpg
《読書MEMO》
●自閉症の子どもに見られる特徴
  ①社会的関係と社会性の発達に障害
  ②通常の対人コミュニケーションの発達が見られない
  ③関心と行動が、柔軟性や想像力に乏しく、限定的かつ反復的
●自閉症の人の脳に高値に存する化学物質「セロトニン」(69p)
●アンとサリーの実験『心の理論』(78p)

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