「●教育」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【925】 井上 一馬 『中学受験、する・しない?』
「啓明舎」の塾長が教育問題や生徒への思いをエッセイ風に語る。
『子供の目線大人の視点―"やる気のある子"を育てるヒント』 〔'00年〕 後藤卓也 氏
中学受験の「啓明舎」の塾長が書いた教育論的エッセイで、'99年から翌年にかけて産経新聞夕刊に「塾の窓」というコラム名で連載されたものを1冊の本に纏めたもの。
著者の塾は、当時は文京区に1教室あるだけで、連載執筆中に大船分校を開校しましたが、有名中学への合格率が高いことで評判を呼んだ今も、この2拠点のみで運営しているようです。
本書では、子供たちにとって学ぶことがなぜ必要なのかということが真面目に考察されていて、初等教育の現状の問題点や、学校・教育関係者、マスコミの空疎な教育論に対する批判が、学習塾という現場の目線でストレートに語られています。
著者自身、シングルファーザーとして子育て中ということで、わが子への思いと相俟って子供たちへの優しい思いが感じられ、一方で、「お子様万能主義」的風潮を痛烈に批判していますが、中学受験については、基本的には、"必要悪"と言うより"イニシエーション(通過儀礼)"として捉えていることが窺えます。
塾の先生には、経歴上途中で一度何らかのドロップアウトした人が多いように思いますが、著者も、東大の大学院で教育について学び、留学までしながら学者にはなり切れなかった人で、では何故いま塾長などやっているのだろうかと自問している風もあります。
その中で出てくるのは、院生時代「啓明塾」で時間講師をしていたときの、志望校に受からなかった子供に対する悔恨の思いで、このことは「啓明塾」が、生徒が確実に受かるところを受験するよう指導している(結果、合格率は高くなる)ことに繋がっているのかも(世の噂では、かつての「啓明塾」では、授業についていけない生徒には退校勧告したり、かなりのスパルタ指導をする講師もいたりしたという)。
エッセイとして読み易く、ちょっと感動する話もあり、一方で力を抜いたユーモアもあって(やや醒めた感じの部分も)、文章は上手いと思いました。
著者自身、本書において"作家"への意欲を見せているのに、その後は、塾のテキストの編集者として名前を連ねるばかりで、当時ほどマスコミにも登場しないけれど、どうしているんだろう、最近は?(塾長を前面に出さないという営業戦略に転換?)。