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考察は深いが、夢の解釈は文学的で、夢の構造分析は哲学の世界に。
『夢分析』岩波新書〔'00年〕 フロイト『夢判断』新潮文庫(上・下)〔旧版〕
2000(平成12)年度「サントリー学芸賞」(思想・歴史部門)受賞作(他の業績を含む受賞)。
本書でなされている夢分析は、フロイト派のそれがベースになっていますが、同時に、『夢判断』という古典に対する著者なりの読解を示すものにもなっています。
エディプス・コンプレックスに関係する夢としてフロイトがあげている中から「裸で困る夢」、「近親者の死ぬ夢」、「試験の夢」という露出、殺害、自覚を表す"類型夢"を、自己を再確認する過程として解釈している点などに、それがよく表れているのではないかと思います。
しかし何れにせよ本書は、夢はすべて幼年期の体験の再活性化であり、夢に現れる多くのものには共通の意味があるというフロイトの考え方が前提になっているので、この考え方が必ずしもしっくりこない人には、著者の解釈は、フィクション(文学または新たな神話)を構築する作業にも見てとれるのではないでしょうか。
夢が"現在の自分の状況を楽にする(=快感原則)"、あるいは"睡眠を保護する"といった「義務」を負っているという捉え方についても同じことが言えるのではないかと思います。
最終章の、夢と現の関係("夢を語ること"と"人生"のアナロジー)についての考察は面白いものでした。
人生は一夜の夢であり、我々はそこから醒めなければならならず、人生を寝倒してはいけない、という意識が、死に対し能動的に心の準備をするように仕向けるという...。
深い考察に基づく著作であることには違いないのですが、夢の解釈についてはある種の文学の世界に、夢の構造分析においては(意図的にでしょうが―著者はラカン派らしいけれど)哲学の世界に入ってしまい過ぎているような気もします。