【3055】 ◎ 安野 光雅 『旅の絵本 (1977/04 福音館書店) ★★★★☆

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どういったアイコンがあるか情報を集めてから探してみるのも一つの楽しみ方。

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旅の絵本 (安野光雅の絵本)』['77年]

旅の絵本1 25.jpg 安野光雅(1926-2020/94歳没)による1977年刊行の「旅の絵本」シリーズ第1作、中部ヨーロッパ編であり、これに続くⅡ('78年)がイタリア編、Ⅲ('81年)がイギリス編、Ⅳ('83年)がアメリカ編、15年ほど間が空いて、Ⅴ('03年)がスペイン編、Ⅵ('04年)がデンマーク編、Ⅶ('09年)が中国編、Ⅷ('13年)が日本編、Ⅸ('18年)がスイス編となります。第1作刊行の時点で作者は50歳を過ぎていたものの、最後のスイス編は90歳を過ぎて描かれたと思えば、まさにライフワークであったと言っていいのではないでしょうか。

 シリーズの特徴として、絵だけで文字はないもののの、見開きの絵がページをめくるたびに何となくつながっていて、見ながら旅をするような感覚であり(だからこそ"画集"ではなく「旅の"絵本"」なのだろうなあ)、行った先々での人々の暮らしぶりや風景・名物などが描かれるほか、歴史・地誌や物語・芸術にまつわるトピックも取り上げられています(したがって時に時間と空間の壁や現実とフィクションの壁が超越される)。そして、それら物語・芸術にまつわるアイコンがどこに隠れているかを探すのが楽しいシリーズです(「ウォーリーをさがせ」の作者マーティン・ハンドフォードは、この安野光雅の「旅の絵本」シリーズのアイデアに触発されたそうだ)。

 このシリーズ第1作は、中部ヨーロッパを舞台に、船で岸にたどり着いた旅人は、馬を買い、丘を越えて村から町へと向かいます。農村や街を抜けて進んでい行く先々で、ぶどうの収穫、引越し、学校、競走、水浴び...etc.そこで暮らす人々の生活や行事と出会うという、まさにこのシリーズのスタイルが確立されたものであり、地域の街並みや自然が克明繊細な筆致で描かれ、中部ヨーロッパの暮らし浮き彫りにされてます。さらに、すみずみまで細かく描きこまれた中には、おとぎ話の主人公や、有名な絵画へのオマージュもあり、こうした数々の仕込みがあるという点でも、シリーズのスタイルが確立されていると言えます。

 登場するモチーフは、中部ヨーロッパ編であれば、「赤ずきん」、「ねむり姫」、「長靴をはいた猫」、「ブレーメンの音楽隊」などで(ペロー童話集やグリム童話が主か)、これがⅡのイタリア編であれば、イエス・キリスト、「ピノキオ」、「シンデレラ」、「家なき子」、絵画・芸術関係ではレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」、ミケランジェロの「ピエタ」とルネッサンス芸術で畳みかけ、Ⅲのイギリス編であれば、「ピーター・パン」、「不思議の国のアリス」、ビートルズ、ネッシー、それにシェイクスピアの生家が出てきて、畳みかけるかのように「ハムレット」「リア王」「ヴェニスの商人」の各1シーンがあります。

 Ⅳのアメリカ編であれば、「大草原の小さな家」のローラ、トム・ソーヤー、「エルマーとりゅう」、「オズの魔法使い」、Ⅴのスペイン編であれば、「ドン・キホーテ」、「カルメン」、コロンブス、ダリ、ガウディ、Ⅵのデンマーク編でれば、「みにくいアヒルの子」、「裸の王様」、「雪の女王」、「人魚姫」(この国はやっぱりアンデルセンで畳みかけるか)と続きます。これらアイコンは簡単には見つからないようになっているので、予め調べるなりして、どういったアイコンがあるか情報を集めてから探してみるのも、一つの楽しみ方だと思います。

旅の絵本1 20.jpg旅の絵本1 10.jpg赤ずきんちゃんのワンシーン.jpgミレーの『落ち穂拾い』.jpg 因みに、このシリーズ第1作の中部ヨーロッパ編では、先に挙げたほかに、トルストイの童話「おおきなかぶ」などの絵もありました(これ、オリジナルもロシアの民話じゃないかな。まあ、ロシアも西側はヨーロッパロシアだが)。

 また、絵画では、クールベの「石工」があり、別のページにはスーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」があり、その近くで水浴びをしている図は、同じくスーラの「アニエールの水浴」か。

 また、最後の方の赤ずきんとおおかみが左上隅にいるページには、右ページの橋の上に肉を食わえた犬がいて、これがまさにイソップ寓話の「犬と肉」。その上にミレーの「落穂ひろい」の図があり、その奥には同じくミレーの「羊飼いの少女」が。そして最後のページには「晩鐘」がきています。ここはミレーで畳みかけるね(笑)。

 おそらく、まだまだいっぱい隠れているのだろなあ。「絵本ナビ」には「読んであげるなら5・6才から、自分で読むなら小学低学年から」とありますが、何だか大人の教養を試されているみたい(笑)。でも、絵だけぼーっと見ていても楽しめます(ぼーっと見ていると何か見つかることもある)。シリーズの中でも、この第1作をはじめ50代に描かれた前期のものの方が、タッチの精緻さという点では至高の極みであるように思われます。

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