【3054】 ◎ 安野 光雅 『かぞえてみよう (1975/11 講談社) ★★★★☆

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絵が美しく、随所に見られる仕掛けを探すのが楽しい。大人も愉しめる。

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かぞえてみよう (講談社の創作絵本)

 1975年11月刊行の本書は、昨年['20年]亡くなった安野光雅(1926-2020/94歳没)の、その名を広く知らしめた作品です。「はじめて数に出会う子供のための絵本」で、言わば、数え唄の絵本版のような感じですが、美しい絵と、そこに込められたアイデアで、大人も愉しめます(第7回「講談社出版文化賞」受賞作)。

かぞえてみよう05.jpg 見開きの「0」ページに川が流れる白のみの何もない、誰もいない雪景色が描かれてて、それが「1」ページにいくと、同じ場所に家が1件建ち、川には橋が1つ架かって、雪だるまが1つあって、スキーをしている人が1人、それが「2」ページにいくと、同じ土地に(雪が少し溶けて枯草が見えている)教会が建っていて、これで建物が2件に。道路では2台のトラックが向き合っていて2人の男性が立ち、山には木が2本、駆けっこしている子供が2人、ウサギが2羽...となっていき、この辺りでこの絵本の仕掛けが何となくわかります。

かぞえてみよう07.jpg ページごとに、家が1軒づつ建ち、人が増え、木が植えられ、季節が変化していきます。建物は洋風ですが、季節変化は日本の四季に近く(ただし「5」ページから「7」ページにかけてからっとした感じの緑が続くので地中海性気候か)、春、夏、秋、そしてまた冬へと廻っていき、最後の「12」ページでは最初の「0」ページと同じ雪景色ですが、何も無かった最初と違い、建物も12件になって、村がしっかり作られています。

 「11」ぺージには、11人の大人と11人の子供が描かれていましたが、この「12」ページの教会の前のクリスマス₌=ツリーの周りにいる大人は11人(あれっ、12人に1人足りない!)。一方、橋を渡って教会に向かう一行は数えてみると13人(あれっ、今度は1人多い!)。でも、この中の1人は大人であとは子供なので、結局トータルでは大人12人、子供12人ということで合っていました。山に生えている木が「11」ぺージの時と同じく11本のままですが、あとがきの「注」に、「教会のクリスマス=ツリーも「かず」の中にはいります」とあります。なるほど。誰かが「間違っているのではないか」と問い合わせたのかな?
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 「あれ、違っているんじゃないか」と思わせて、よく見ると合っているという、こうした随所に見られる仕掛けを探すのが楽しく、作者の絵本作品は、美しい絵を味わいながら、こうした仕掛けをも愉しむものがいくつもありますが、この作品はその最たるものと言えるでしょう。

 ニューヨーク・タイムズ紙の書評が、「これほどうまく数えるということの根本をうまくとらえ、しかも芸術性の高い本はない。幼児にとって、なにものにもかえがたい味わいのある本であり、親もいっしょに楽しめよう」と絶賛しているほか、多くの海外メディアが称賛し、作者が多くの海外の絵本賞を受賞する契機となった作品でもあります。

 もしかしたら、同じようなアイデアをひらめいた人がほかにもいたかもしれませんが、なかなか実際に作品にしてみるというところまではいかないのでしょうね。数にこだわりを持ち、数学者との対談などもあった作者だからこそ、やり通せたのかもしれないと思いました。数字の0~12以外に文字のない絵本ですが、だからこそ、海外の人でも楽しめるものになっているように思います。

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